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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第1話
僕が正義で君が悪 [#5]


 しばらく街の人々に追い回された後、ジャスティーダは人目を忍んで駅前に戻った。コインロッカーから荷物を取り出してトイレの個室に飛び込み、なんとか正義の使徒から一個人、日之本へと戻ることができた。
「平和そうな街に見えても、やーっぱ、いろいろいるんだね」
 日之本が着替えをしている最中、くしゃくしゃになったちらしを覗き込みながら、アイベリーは腕を組んで、いかにも考えているのだぞというていで唸った。ずっとポケットの中にいたため視認こそしていないが、一連の会話は全て聞こえている。おかげで日之本は説明をする手間が省けた。
「アンタがダメージくらい続けてたときは、どうなるかと思ったけど……ま、なんとかなってよかったじゃない」
「まったくだ。それにしても……とにかくすごく強かった」
「パワーフィールドを展開したのは気になるとこだよね」
 それは日之本も疑問に思ったことだった。
「あれはジャスティス・スーツ専用の機能じゃなかったのか?」
「さあ。そのあたりはアイも知らされてないもん」
「そうか……」
「でも、オメガクリスタルが使われているのは間違いないよね」
 オメガクリスタルは現代科学では認知されていない未知の鉱物である。ジャスティス・スーツに搭載されているパワーフィールド展開機構では、この謎の鉱物が発する力を増強させることができるのだ。
 しかし、日之本が知っているのはそれだけである。彼はオメガクリスタルやパワーフィールドについての科学的、技術的な知識もなければ、このオーバーテクノロジーがスーツに搭載された経緯を知る機会もなかった。もちろん、なぜあの悪の組織で使われているのかもである。
「今度、パパに聞いてみたら? 何か教えてくれるかもよ」
「それが一番だな。もっとも、うまいこと連絡が取れればだけど」
「期待はしない方がいいかもね」
「でも、まいったな……あの『クリーナー』って奴ら、きっとまた現れるぞ。何かしらの対策は取りたいところなんだけどな」
「あ、いいこと思いついた。アイにおまかせだよ」
 アイベリーが液晶の上でくるくると回った。
「つまり、オメガクリスタルが発する周波数はわかってるわけよ。だから、アンタのスーツ以外のオメガクリスタルの周波数を探知したらアイが教えてあげられるってこと」
「なるほどシャイニング・レディが現れたらわかるってことだな」
「ただ、半径50メートルくらいが限度だと思うけど」
「……微妙な距離だな」
「仕方ないでしょ。オメガクリスタル自体が発する振動は微弱なんだし、公共の電波のようにはいかないよ。それに、そもそもアイのボディはクールフォンなんだから、こんなスペシャルな芸当ができるってことを僥倖ぎょうこうと思うべきよ」
「確かにな。対応はできるんだから、これでよしとするべきか。じゃあ反応があったらすぐに教えてくれ」
「オッケ、オッケ。おっと、本格的に電池が少なくなってきちゃったから切るね。充電とバックアップ、よろしく! スリーピン、ナーウ、美女の眠り」
 アイベリーはまくしたてると、またも一方的に話を切り上げた。
 日之本はため息をついてトイレを出ると、ずるずると重たい足を引きずりながら本来の目的、新しい入居先に向かった。



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