人世一夜の日登美荘
第2話
登場!爆裂プリンセス! [#2]
そんなふうに日之本とアイベリーが漫才じみた会話をしている頃、町枝駅では駅ビルの屋上に立って口を大きなオーの字に開けている少女がいた。
「むおぉぉ!」
「姫様……どうしました?」
少女の肩に乗っている小動物が問う。少女は空を指さしてにっこりと微笑えんだ。
「なんと気持ちがよいのであろう! 見よ、このスコーンと晴れた空、あのギラギラ輝く太陽! 刻魔界とは全く異なる景色を! この目の前に大きく広がるゴーカケンランなる人間族の建物を!」
「みゅん、今日は気温がぐんぐん上がるに違いありません」
初めて見る景色に感動していた少女は名をシャドーという。正式にはシャドー・ヴァン・リュート。刻魔界で名門と名高い魔貴族、リュート家の令嬢である。そして、小動物は邪姫丸。猫のようにしなやかな身体と長いしっぽを持つ。シャドーの使い魔にして目付役だ。
「そして、それは人間たちがオゾン層を破壊した結果なのです」
「な、何と? そうなのか!?」
「うん。邪姫丸はそう聞いてます」
シャドーは眉を寄せた。
「なんと……むぉぅ、そうであったのか」
「すなわち人間の欲望が空にまで渦巻いてるということかもしれません」
「言われてみれば、確かに……どことなくいやーなオーラのようなものを感じるのぉ」
邪姫丸の言葉を聞くうちにシャドーが抱く嫌悪感はどんどん膨らんでいった。ひとつため息をついた後、彼女は寂しそうにつぶやいた。
「青いのに……空はこんなにも青いのにのぉ……」
シャドーはまたため息をつき、自分の腕を見て、三度驚いた。
「わわっ、いつの間にか、じっとりと汗ばんでおる。もしや、わらわも心の奥底ではこの世界の邪なる気配を感じ取っておったのではあるまいか」
「なるほど。さすがは姫様、お目が高いですみゃ」
「さもあろう。わらわはなんといっても、名門リュート家の子女であるからの。どちらにせよ、困難は受け止めねばなるまいな」
暗鬱な気持ちを吹き飛ばし、本来持っている天性の明るさを取り戻したシャドーは胸を張って誇らしげに語った。
「では、参るとしようぞ。まずはこちらの世界のことをよく知りたいものじゃ」
「早速行こー、姫様ー」