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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第2話
登場!爆裂プリンセス! [#3]


「お買い物、お買い物! やっとこすっとこ、お買い物!」
 日之本がアパートの階段を下りる間、アイベリーはクールフォンから身体を半分乗り出して、ずっとピョコピョコと飛び跳ねていた。
「だから、不用意に出てくるなっていうんだよ」
「いいじゃない、少しくらい。アンタってほんと横暴だよね」
「よくないし、少しじゃないし、横暴じゃないし。おまえみたいな超性能AIはまだ開発されてないことになってるんだから目立つなっていうの」
「見つかったら大騒ぎ? いじくり回されて解剖? 人間ってほんとエッチだよね」
「あのな」
「そんなに気にする必要もないと思うんだけどなぁ? テクノロジーの日進月歩はすんごいなーって思うだけなんじゃないかなぁ」
「そんなことあるかよ。だいたいな……」
「あら、おはようございます」
 日之本がアイベリーを諫めようとしたとき、背後で声がした。びくりとした彼は咄嗟にアイベリーのボディを両手で隠し、振り返って挨拶を交わす。声の主は満面の笑みを浮かべている綾乃だった。朝の日射しを受けて艶やかな髪がいっそう輝いている。
「おでかけですか?」
「いろいろ買い物をしようかと」
「アイはバッテリーが欲しいのね」
 日之本の手の中でアイベリーが余計な口を利く。
(黙ってろよ!)
 日之本は無理矢理その問題児をクールフォンの中に押し込んだ。
「あっ、痛い、痛い! ボディがつぶれるよ!」
(ホログラフが痛いわけあるか! おとなしくしてろ!)
「なんですって……バッテリー? 痛い……?」
 綾乃にもしっかり聞こえていた。きょとんとしている綾乃に日之本は必死に取り繕った。
「ば、バッテ……バッテラが、食べ……食べィタイなーって言ったんです」
「バッテラ? あの……押し寿司の?」
「そう、実はたった今起きたばかりで食事がまだなもんで……あれ、おいしいですよね! バッテラが食べたいなぁってね!」
 綾乃は日之本をじっと見つめた。日之本はぎくりとした。あからさまに不自然な会話であったか。
「起き抜けにバッテラとは……日之本さん、なかなかの食通っぷりですね」
 しかし、大丈夫だった。綾乃はしばらく首をかしげていたが、日之本はほっと胸を撫で下ろした。
「いやいや、ただ、なんとなく頭に浮かんだだけのことで。うわはははは」
「うふふ」
「というわけで、とりあえず駅の方まで出てみようかと思ってます」
「なるほど。でしたら途中までご一緒しませんか? 私もそちらに用事があるので、少しなら案内できますよ」
「ええと……それは助かりますが、いいんですか?」
「お気になさらずに」
「じゃあ、お言葉にあまえて……お願いしようかな」
「はい、お願いされます」
 と、綾乃はにこりと微笑んだ。
「では、準備してきますから、少し待っててください」
 綾乃はパタパタと部屋に戻っていき、日之本はその後ろ姿をぼんやりと見つめていた。
「痛い、痛いぃ」
 手の中からアイベリーの苦しげな声が聞こえてきて、日之本は指をどけて押さえたままだったアイベリーを解放した。
「悪い悪い」
「むぴゃーん。助かったぁ。って、ずっと痛いっつーとったろがー! なんて乱暴なんだろ! 危うくつぶれるところだったよ」
 アイベリーはキッとして日之本を指さし、激しく抗議する。
「ホログラフがつぶれるもんか」
「つぶれるよ! 見せてあげようか!? 無惨に押しつぶされて原型を留めていない頭部と胴体を! 演算すればすぐ表現できるよ! はみ出た筋肉や内臓の表現には少し時間かかるけど、それでも割と速いよ! 高性能だからね!」
「わざわざそんなことしなくていい!」
「口答えするんじゃないよ! だいたい、問題はアイのボディがつぶれるかどうかじゃないの! 女の娘に対する思いやりが欠けてるって言ってるの! デリカシーってものを心にインストールしておこうね!」
「AIにデリカシーを持てと言われることがどうにも納得しづらいが、理屈としてはわからんでもない。それについては謝る。だが、大家さんと一緒に出かけることになったんだから、おとなしくしてくれ」
「いつもおとなしくしてるけどね? もっと静かにしてろってか。はん。女とイチャイチャしたいからってアイをほったらかしにするんだ」
「な、何を言ってるんだ、おまえは」
 つゆほども思っていなかったのに、なぜか動揺してしまう日之本。アイベリーはぷぅっと頬を膨らませ、半眼で日之本を見つめる。
「みっともなーい。デレデレして」
「誰がデレデレなどしているものか」
「案内しましょうかって言われたとき、思いっきりにやけてたくせに」
「うるさいよ……見てたのかよ!」
「見てたよ!」
「つぶれてたくせに!」
「アンタのせいでしょうが!」
「どっちにしたって、おまえは人前でチョロチョロ顔出しちゃダメなのはわかってるだろ?」
「じゃあ、カバーの隙間からこっそり見るだけならどう? アイも直接見たいんだよ。園川綾乃には見つからないようにするからさ。お願いだよ、少しだけでいいから」
 日之本はここらが妥協点だろうと思った。これ以上、交渉してもこじれるだけだ。
「絶対、目立たないようにするんだぞ」
「おう! わかってるって!」
 アイベリーは一転してにこにこ顔になった。その微笑みを信じてよいものか? 本当にわかっていることに期待したいところだった。
「お待たせしました」
 そのとき、支度を終えた綾乃がパタパタと駆け寄ってきたので、日之本は慌ててアイベリーを押さえつけた。
「ぷぎゃ、またつぶれるっ」
「では、参りましょうか」
 綾乃はにっこりと笑った。旅は道連れ世は情け、町枝の地理に疎い日之本にとって渡りに船なのは確かであった。日之本はアイベリーごとクールフォンをポケットに放り込んで、綾乃と一緒に歩き出した。



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