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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第2話
登場!爆裂プリンセス! [#4]


「右手をご覧ください、そこがJAの直売所。新鮮なお野菜買うならそこで決まりです。あと、その先の十字路を左に曲がると郵便局。もう少し行くとドラッグストアもありますから。それと、やっぱりそこのスーパーは便利ですね」
 綾乃の案内は町枝駅に向かう道中から既に始まっていた。さながら修学旅行中の生徒とバスガイドである。日々の生活で世話になるであろう主要施設やイチオシの店についての説明。日之本は綾乃の解説にいちいちうなずき、一言も聞き漏らすまいと片っ端から頭に叩き込んでいった。中でも、ほぼ毎日の生活に直結するであろうスーパーに至っては、お買い得商品が出るタイミングやクーポン券など詳細なお得情報を聞くことができ、日之本は涙を流した。その最中、アイベリーは言いつけ・・・・を守って、ポケットの中からこっそりと顔を出して街並みを珍しそうに眺めていた。
「はーい、ここで踏切を渡るといよいよ町枝駅に到着でーす」
 駅前まで来ると人通りもそれなりに多くなる。しかし、行き交う人たちは一様に昨日の広場に目を向けていた。
「うっ」
「まあ……」
 ふたりは息を呑んだ。
 まずポールの間に張られている「KEEP OUT」と記された黒と黄色のテープが目に入った。そして、月のクレーターのようにへこんだアスファルトと砕けて飛び散った歩道のレンガ。駅ビルの入り口につながるエスカレーターは作動しておらず封鎖されていた。ドアが閉まらなくなってしまった喫茶店、傾いてしまった飲み屋の看板。さまざまな店の入り口にも臨時休業の紙が貼ってあった。全て昨日の事件の爪痕である。無残という言葉がこれほど似合う場所もそうそうないのではないか。
 しかし、日之本は思う。すべて悪の組織『クリーナー』が原因だ。己も関係者ではあるが、やはり悪は悪いのである。隣の綾乃もその惨状を目の当たりにして、二の句が継げない様子だった。
 修繕のため視察しに来たらしい作業服を着た人々が何か話をしていた。ひとりはスーツを着ている。彼らの会話の一端が風に乗ってふたりの耳に飛び込んできた。
「何日くらいかかりそうですかね」
「うーん、ちょっとなんとも。けっこうな広範囲だからなぁ……建物が建ってる所は基礎がどれだけ傷ついてるか調べないといけないかもしれないし」
「わからないってのは困りますね、こんな状態のまま放置するわけにはいかないんですから」
「そんなこと言われたって俺たちだって困る。だいたい、どうしてこんなひどいことになっちゃったのさ」
「さあ、私にはわかりかねますが……」
「さっきからそればっかりだね。昨日、乱闘騒ぎがあったって聞いてるよ」
「そうですか? 事故だったのでは……」
「まさか! どんな事故でこんなことになるっていうの。事故じゃなくて事件! 目撃者もいっぱいいるっていうし」
 そこまで聞こえてきたところで綾乃がぼそりと言った。
「あの……行きましょうか」
 それで日之本も我に返った。
「そ、そうですね。あまり、聞き耳を立てているのも失礼な感じがします」
「ええ。私たちにはどうしようもないわけですし、ここはプロの方々にまかせ、早々に立ち去るべきかもしれません」
「俺もそのとおりだと思います」
 ふたりは力強くうなずくと、議論を加熱させている人たちを背に歩き出した。

 * * *

 広場からそそくさと離れていくふたりと入れ違うように歩いてきたのは、小柄な少女と背の高い女性だった。地上に降りた後に変身したシャドーと邪姫丸である。
 シャドーはポップなTシャツと半ズボンにニーソックス。刻魔界で耳にした、人間界での年相応の娘の風貌をしていた。邪姫丸は小動物の姿から見事な人間の姿になっていた。人間界では、シャドーが『麻穂沢まほ』、邪姫丸が『麻穂沢しもべ』と名乗り、姉妹として通すことと決めていた。身分を隠している方がいろいろと都合がよいという知識を仕入れてのことであった。
「ふむ、これはなかなか賑やかで楽しそうな所ではないか」
「まほ様がお気に召したなら何より……です」
「どうじゃ、しもべは懐かしいであろう」
「いえ……以前とずいぶん様子が異なっています」
 しもべはこくりとうなずき、淡々と続けた。
「しもべがこちらに来たのは百年近く前……しばらく見ないうちに、随分、文明が進んでいるようです」
「では、邪姫丸もわらわと同じく新鮮な気持ちでこの風景を眺めることができるというわけだな」
「はい……お得です」
 ふたりはにこりと笑い合った。
「しかし……この地面の整地の仕方はひどいものであるな。エレガントさのかけらもないではないか。これが進歩と申すか?」
 まほは足下を見て眉を曲げた。でこぼこのアスファルトはとにかく歩きづらい。「KEEP OUT」と書かれた結界のようなものの周囲をひっきりなしに人が通って何か話し合っていた。
「さすがにこれは……おお、わかりました。きっとひどすぎるので、リニューアル中なのでしょう」
「そうであろうな。であれば、これだけでこぼこであることにも得心がいく。急速に勃興した文明ではよくあることと聞く。せっかくであれば、この上なくエレガントな整地をしてほしいものであるがな」
 まほは近くの作業着を着ている男性に声をかけた。
「これ、そこな者。ここはどのような景観にする予定であるか?」
「はぁ? どのようにも何もあるかよ!」
「む、むお!?」
 振り返った男性の眉間にはとても深くしわが寄っていて、まほは気圧されてたじろいだ。そこに別の男性がやってきて、いらだっている彼の肩を叩いた。
「そうぼやくなよ。言われたとおりにやるのが俺たちの仕事だろう」
「ここは年末に工事したばっかりじゃないか。またほじくるなんて」
 さらに年輩の男性が歩いてきた。
「どうした、手が動いてないぞ!」
「そんなこと言われてもね、監督! 俺は今日は休みをもらえるはずだったんですよ」
「しょうがないだろう、人が足りてないんだから」
「いつもそう言うけど雇おうとする素振りも見せてないじゃないですか」
「俺だってしょっちゅう専務には言っているよ。でもなかなかさ」
「専務ね、あの事なかれ主義に言ってもムダだってことでしょ」
「そうだそうだ、現場をなめやがって」
「まあまあ、みなさん。今はそんなことより測量をしてくださいよ」
「なんだって? 『そんなこと』だと? だいたい、あんたらみたいにお役所仕事してる人間に『そんなこと』言われたくないんだけどね」
「おい、やめろって」
 そこにさらに別の男たちが寄ってきて議論に加わった。
「そうだな、どれだけ俺たちをこき使ってもかまわないって思ってるんだろうな!」
「そんなことは一言も言ってないじゃありませんか」
「また『そんなこと』とか言いやがった! わかったもんじゃないぞ、さっきからずっと偉そうに、上から目線で俺たちを見下してやがる!」
「そうだ、そうだ。俺たちの税金でのうのうと暮らしてるくせに!」
 あれよあれよという間に興奮した男たちが群がって、激しい怒号が乱れ飛んだ。まほたちはあっけにとられてその様子を見ていた。
「むおっ、なんなのだ?」
「エレガントさの方向性で意見が対立しているのかもしれません」
「我が強いのお。この様子では、そうそう意見もまとまるまい。どのようにするか聞くのは後日のこととしよう。わらわは、早速、この付近の視察を始めたいからの!」
「それがよいと思います」
 ふたりはうなずいてその場を離れることにした。



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