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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第2話
登場!爆裂プリンセス! [#6]


「あっ……もうこんな時間?」
 綾乃は壁にかかった時計を見てはっとした。1時30分を過ぎていた。少しだけ食休みをするつもりが、随分と話し込んでいたのだった。
「そういえば用事があるんでしたっけ」
「あはは……1時から約束があったんですが……ちょっと遅刻かも……」
 綾乃は肩をすくめて小声でばつが悪そうにつぶやいた。
「待ち合わせしてたんですか? そりゃ、急がないと」
「うーん、でも……少しくらいなら待たせちゃっても平気……ですから」
 綾乃は歯切れ悪くつぶやいたが、特別に慌てているふうではない。いいのだろうか?
 誰と会うのか聞いてみたい衝動にかられた日之本だったが、他人が立ち入ってよい領域とも思えなかったので我慢した。
「急いだ方がいいですね。すみません、長いことつき合ってもらって」
「いいえ、私も久しぶりに気分転換ができました。よかったら、今度、またご案内しますね。ディープスポットがたくさんあるんです。せっかくこの街にいらしたのですし、徹底的に楽しんでいただかないといけません」
 会計を済ませて外に出たところで、綾乃はぺこりとお辞儀をして早歩きで立ち去った。日之本はその後ろ姿を見送った。
「ジー」
 ポケットから音がした。発声だった。チェシャ猫のように口角を吊り上げたアイベリーが顔を出して日之本の顔を見上げていた。
「な、なんだよ」
「それはアイのセリフだよー」
 アイベリーがさらりと答える。
「なんだかおもしろい顔してるのはどうしてかな」
 日之本はピクリと来た。わかっているのかいないのか。人間の感情を理解するのは難しいはずだが、どうにも知った風なことを言うことが多い。
「おもしろいとか言うな。あー、もう、黙ってろよ」
「にひひっ……」
 いつまでもアイベリーの軽口に関わってはいられない。さっさと次の用事……日用品の買い物に向かうことにしよう。丁度、綾乃にいろいろと店を教えてもらったところだ。日之本が歩き出そうとしたときだった。
「んわ!?」
 いきなりアイベリーと本当のボディ――つまり、クールフォン本体――がぶるぶると震え出した。
「来た! 来た来た! これ……アレ!」
「アレ?」
「アレ、アレだよ! オメガクリスタル反応キャッチ!」
 アイベリーが興奮して叫んだ。アイベリーが探査できるようにした例の反応、つまり、昨日の敵が現れたことを意味する。
「場所は!?」
「すぐそこって感じ……あっちの商店街の方だよ」
 日之本は急いで走り出した。

 広場から少し離れた商店街の先の一画に、たくさんの「黒タイツ」が集まっていた。本日の任務は正午開始で現地集合。しかし、予定の時刻になったというのに肝心の指揮官が姿を見せない。しばらく我慢して無言で待つこと1時間。戦闘員たちの緊張が解け、だらけ始め、時間か場所が間違っていたのだろうかとだんだん不安になっていたとき、やっとシャイニング・レディが駆け寄ってきた。
「ふう、ふう……遅れてすみません」
「イー!」
 戦闘員たちは口々に文句を言った。上司が、しかもここまで大胆な遅刻をするとは何事であるか。
「いえ……ちょっと用事があったもので……」
「イー!」
「う、わかっています……今日はたまたまです」
「イー!」
「私にだって事情があったのです! ついうっかりしてしまっただけなんですから!」
「イー!」
「たまたまだと言っているではないですか! だいたい1時間遅れたくらいでなんですか! 待つのも仕事! それよりも任務です! お仕事を頑張りましょう! 遅れを取り戻しましょう!」
「イー……」
 強権発動。不承不承ではあったが、戦闘員たちは気合いを入れ直し整列した。遅刻した彼女に非があるのは確かだが、これ以上、文句を言っても仕方がない。私情を抑えて業務をこなすことは悪の組織の掟のひとつであり、それを守ることが彼らのプライドでもあった。
「では、まず前回のちらし配りの件です。邪魔者が入ったせいで本来の活動は中断を余儀なくされてしまいました。ですが、結果的に悪の組織が存在しているということを、街のみなさまに予定よりも派手に告知できたわけですから、まずまずの成果であったと判断できます」
 戦闘員たちから安堵の声が上がった。彼らも昨日のことは気にしていたのである。あれは大丈夫だったのか。結果がまずまずなのであればよかった。
「もちろん、本当の成果はこれからの活動次第です」
 と一旦締め、シャイニング・レディは戦闘員たちののっぺりした顔を見回した。
「さて、そこで本日の任務についてです。よく聞いてください……」
 日之本がアイベリーのナビに従って現場に着いたのはそのときであった。
「いたぞ、奴らだ」
「マジ、いたね!」
 日之本は緊張した。彼らはまた目前で悪事をしようとしている。なんとしても止めなくてはならない。それが正義の味方の使命である。周りを見回すと丁度いい具合にコンビニエンスストアがある。日之本は中に飛び込んで、レジにいた店員に声高らかに告げた。
「すみません、トイレ、貸してもらえますか?」
 ダッシュでトイレに入り、鍵をかけると、背負っていたデイパックからジャスティス・スーツを取り出した。
「常着! ジャスティス!」
「今の店員さん、そんなに我慢してたのか、とか思ったに違いないよ?」
 アイベリーの茶々を聞き流しながら、日之本は黙々と着替え、ジャスティーダに変身した。
 トイレから出た彼はレジに向かい、突然の正義の味方の出現に驚いて大きく口を開けていた店員に、持っていたデイパックを渡して告げる。
「すまないが、この荷物を預かってもらえないだろうか。私はこれから正義を貫かなければならないのだ」
「は、はあ……」
「では頼んだぞ! 既に奴らを見つけてから3分ほど経っている! 急がなくてはならない!」
 店員があっけにとられてわずかにうなずいたのをいいことに、ジャスティーダは外に飛び出て、先ほどの場所へと戻った。



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