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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第2話
登場!爆裂プリンセス! [#7]


「質問はないですね? では、各自、任務開始」
「待ったあ!! おまえたちの非常識な悪事を見すごすわけにはいかない!」
 ジャスティーダが割り込んだのは、丁度シャイニング・レディの説明が終わって戦闘員たちが行動しようとしたときだった。
「あなたは……昨日の非常識な正義の味方!」
 シャイニング・レディが仇敵を睨んだ。戦闘員たちにも緊張が走った。
「むっ、さらなる非常識なる発言! つまり2倍非常識なのはおまえたちだぞ」
「お黙りなさい!」
 シャイニング・レディがジャスティーダにびしっと指を突きつける。
「悪の組織が悪事を行なわずしてどうするというのです!」
「だから、近隣の皆様にご迷惑をかけてはいけないでしょう!」
「我らの社則にそのような制限はありません! 第一、私たちは今日は商店街の皆様に、ご挨拶をしようとしていたところです!」
「な、何?」
 戦闘員たちも一成にうなずいた。彼らは『粗品』と書かれたのし紙が貼られたタオルを持っていた。
「ご挨拶です、ご挨拶! 迷惑ですか!? それが!」
「イー! イー!」
 戦闘員たちもこぞって抗議する。
「う、うむ……そ、それは確かに悪いことではないが……」
「そうでしょう!? 憶測で物事を判断するのはやめていただきたいものですね!」
「イー! イー!」
 ジャスティーダは少しだけ旗色が悪くなったことを感じとった。迷惑どころか、むしろ礼儀正しい行為であったなら、ジャスティーダも邪魔する正当な理由がない。彼は必死に考えた。
「あ、待てよ? でも、おまえたちって悪いことするのが任務なんだろ? だったら、その挨拶回りは悪いことじゃないけど……それはいいのか?」
「あら? そういえば、そうですね」
 シャイニング・レディが首を捻った。ジャスティーダが形勢逆転といわんばかりにまくし立てる。
「な、な? そうだろ? そう思うだろ!?」
 シャイニング・レディも一瞬考えたが、堂々と胸を張って言い放った。
「いいえ、大丈夫! これは悪の組織の必要悪です!」
「お、おお! 必要悪ということは、やはり悪事ということだな!? ということは、私の出番なのだな!」
 ふたりは共に自分たちの立場を再確認した。万が一、主義に反する行動であれば、互いにアイデンティティの危機を迎えてしまうからである。
「ならば、容赦なくおまえたちの活動を阻止できる! さあ、さっさと解散したまえ!」
「お断りいたします。邪魔をしないでいただきたい!」
「頑迷な! しょせんは悪の組織! どうしても言うことを聞かぬというなら、実力を行使することになるが、いかに!?」
「なるほど、しょせんは正義の味方。何かというとすぐ暴力に訴える。とっても粗野な考えですね」
「だまらっしゃい! 交渉決裂だな!」
 話し合いは無駄であった。ジャスティーダはパワーフィールドのスイッチを入れて臨戦態勢を取った。
「仕方ありませんね! いきなさい、戦闘員!」
「イー!?」
 突然、戦闘命令がくだり、戦闘員たちは驚いた。戦うことそのものに驚いたのではなく、パワーフィールドを展開している相手に向かっていけという指示に驚いたのである。戦闘員たちのスーツは多少丈夫というだけのただのタイツで、パワーフィールドに対抗できそうなそのほかの特別な機能は一切搭載されていないのである。
「イー! イー!」
 ぶるぶると首を横に振る戦闘員たち。ジャスティーダの強さは、前回の戦闘で知っている。
「頑張るのです。パワーフィールドがあっても、みんなで一斉にかかれば対抗できるかもしれません」
「イー……? イー?」
「ブツブツ文句ばかり言ってないで、さっさと戦いなさい!」
「イー……」
 またも強権発動。戦闘員たちは互いに顔を見合わせると、諦めて一斉にジャスティーダに飛びかかっていった。
「その勇気、敵ながら天晴れ! しかし、正義は負けないのだ!」
 ジャスティーダは群がる戦闘員たちを次々と頭上に高く掲げて投げ飛ばした。
「イー!?」
 戦闘員たちは各々パラボラを描いては道端に落ちていく。うまく受け身を取れた者もいたが、ほとんどはどこかしら身体を打ちつけてしまった。あっという間に総勢20名の戦闘員が地面に突っ伏すことになった。
「うーん……やはりノーマルの戦闘員ではパワーフィールドには歯が立ちませんか」
 戦いに破れた戦闘員たちを見下ろしてシャイニング・レディがしみじみとつぶやいた。
「根性だけではどうにもならないこともありますね」
「わかってるんだったら、かわいそうな命令出すなよ」
「漫画だったらなんとかなるんですけどねぇ。仕方がありません。今度は私が相手になりましょう」
 シャイニング・レディは自らのパワーフィールドを展開した。
「やはりそうなるか。ならば、いくぞ!」
 ジャスティーダは拳を振りかざして、シャイニング・レディに突撃する。しかし、彼女は拳が当たる直前で横にけた。空振りしたジャスティーダの拳は後ろの電柱に直撃して派手な衝撃音が商店街に響き渡る。
 次はシャイニング・レディが詰め寄る番だった。振り向いたジャスティーダのボディに、シャイニング・レディの蹴りが直撃する。
「ぐほ!」
 ジャスティーダは身体がくの字におり曲がったまま後ろに飛ばされ、アーケードの柱にぶつかった。ピンと張ったワイヤーがしなり、飾りの造花が桜吹雪のように舞い散る。昨日とほぼ同じ失態である。
「あいたた……」
 むっくりと起き上がったジャスティーダは、次こそ捉えてくれる、と決意も新たにシャイニング・レディに突撃した。腕を振りかぶり、力強く振り下ろす。だが、シャイニング・レディは軽やかなステップでジャスティーダのパンチをけ続ける。身のこなしに関してはジャスティーダよりもシャイニング・レディの方に軍配が上がっていた。パワーそのものはジャスティーダの方が勝っているのだが、当たらなければ意味がない。時折、隙を突いて、シャイニング・レディも鋭いキックを繰り出す。ジャスティーダもけっして鈍くさいばかりではない。その蹴りをうまくブロックし、むきになって拳を振り回した。
 その攻防の結果、風圧で付近の建物のガラスがミシミシとしなり、ついには耐えきれずに割れて飛び散ってしまった。突然の騒ぎに通行人は驚き戸惑い、近くの店の人たちも次々と顔を出した。
「わぁぁぁっ……な、なんだ!?」
「あ! あいつら、昨日、広場で大騒ぎしてた連中じゃないか!?」
「何? 今度はこっちかよ!」
 そんな周囲の喧騒を気にすることなく、ふたりは闘いを続けた。
「商店街のみなさんが迷惑しているぞ! くらえ……ジャスティス・ブレイク!」
「迷惑をかけているのはあなたですからね! ええい、シャイニング・スラッシュ!」
「おまえたち、ふたりとも迷惑だ!」
 商店街には激震が走り続けた。



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