人世一夜の日登美荘
第2話
登場!爆裂プリンセス! [#9]
派手だが精度と程度の低い殴り合いの現場は、商店街の入り口から奥へと移動していた。ジャスティーダとシャイニング・レディは互いに息を切らせかけて睨み合っていた。
「なんてしつこいんだ」
ジャスティーダがぼそりとつぶやくと、
「ほんと、あなたは自分のことを棚に上げた発言をしますね」
すぐさまシャイニング・レディが返す。ふたりとも、ここまでの激闘になるとは予想だにしていなかった。
「そろそろ決着着けたいとこだよなぁ」
「ま、それには同意しますけど」
「次で決めるってことにしとくか」
「いいんじゃないですか、それで」
「ようし。では恨みっこなしということで……いくぞー!」
ジャスティーダが何十回目かの突撃をしようとして、シャイニング・レディが身構えたときである。
「待てーい!」
脇から鋭い制止の声が上がった。ふたりがゆっくり振り向くと、そこに立っていたのは、大きな杖を持った小柄な少女。
「む……君は?」
「あなたは……?」
シャドーの姿を確認したジャスティーダとシャイニング・レディは咄嗟に彼女を危ない目に遭わせてはならないと思った。
「危ないから下がっていなさい! 今は戦いの途中なのだ!」
「危ないから下がっていなさい! 今は戦いの途中なのです!」
「黙れー! 勝手なことをぬかすなー!」
すぐさまシャドーが爆発し、ジャスティーダは心がざわめいた。
「な、何だ? この娘は……」
「そなたらに名乗るなど、到底もったいなさすぎる話であるが、知らぬままでは冥界での寝覚めが悪かろう。ばっちり聞くがよい。わらわは優雅姫シャドー・ヴァン・リュートである」
「いや、名前を聞きたかったわけではないのだが……」
「それで、私は邪姫丸ですみゃ」
シャドーに握られた邪姫丸がにぱっと微笑む。
「杖がしゃべったぞ! どんなトリックだ!?」
「トリックではありません。邪姫丸はれっきとしたシャドー様の使い魔ですみゃ」
「使い魔! はあ、本当にいるんですか。不思議ですが、結構、かわいらしいですね」
「お褒めにあずかり、恐縮ですみゃ!」
シャイニング・レディも驚いたが、あっさりと受け入れた。
「くふんっ。これで疑問は氷解したな。では、もう思い残すことはなかろう。わらわがド派手にお仕置きしてくれる」シャドーは胸を張り、得意気に言い放つ。「よくもわらわにあんな無礼な真似をしおったな!」
「あの……何を怒ってらっしゃるのですか?」
「言い訳は無用じゃ! さあ、たんまりと後悔させてしんぜよう!」
シャドーは握りしめていた邪姫丸の頭部をジャスティーダたちに向けた。
「その身を焦がし、そして魂に焼きつけよ! わらわの必殺魔法『漆黒のリグレット』を!」
「はい、姫様。『邪姫丸ビーム』発動します」
邪姫丸は口をパカッと開ける。すると口の前に妖しい光が集まりだした。
「ぽわわわわー!」
光はみるみるうちに強くなり、さらに大きく膨れ上がっていく。
「な、なんだ? あれは」
「すごく、いやな予感がしますが……まさか……」
「ぽわわぁぁぁ……シューッ!」
邪姫丸の口からド太いレーザー光が射出された。
「なぁぁにいぃぃ!?」
ジャスティーダとシャイニング・レディは本能的に飛び退いた。レーザーは後ろのビルに当たり、ジジッといやな音がした。爆発などで粉砕するならまだ日常的ともいえただろうが、とてつもない高温でコンクリートは黒く焦げつき、近くのガラスも変形しているあたりが恐ろしい。ふたりはその様子を見て呆然と立ちすくむ。
「おおお、おいっ、あいつはなんなんだ!」
「わ、私が知ってるわけないでしょう!?」
「だってビーム兵器じゃないか、あれ! おまえの組織の改造人間とかじゃないのか!?」
「うちの組織はそんな非人道なことはいたしません!」
ふたりが動転している間に、怒り心頭に発しているシャドーはわなわなと拳を震えさせた。
「むぅっ、逃げおった! おのれしぶとい輩! もう一度くらわせるのじゃ! ゆけゆけ、邪姫丸! 『漆黒のリグレット』!」
「みゅぅ……かしこまり……『邪姫丸ビーム』準備ぃー、ぽわわわわー」
邪姫丸がまた光の球を作り始めた。
「んな!? あいつ、まだやる気なのか!? おい、おまえ! だめだぞ、そんなことをしては」
ジャスティーダはシャドーを説得にかかった。
「わらわをこれだけ愚弄しおったくせに今さら何を言うか!」
「そんなことした記憶はないんだがな……どうだ、ここはひとつ話し合いをしてみるというのは」
「もはや、そのような段階ではなーい! 実力行使あるのみ! 消し飛べっ!」
「ああ、だめだ。聞く耳を持ってくれない!」
ふたりがそんな会話を交わしている間に、邪姫丸の口の前に大きな輝く光球ができあがっていた。
「シューッ!」
再び邪姫丸がレーザー光を放ち、ふたりは直前にさっと飛び退いた。今度はレーザーは後方の建物の壁に大きな穴を空けて突き進み、貫通してしまった。それどころか、その次の建物にも穴を空ける始末だった。
このようなものを乱発されると街が消し飛んでしまう可能性すらありうる。しかし、シャドーは怒り狂っていて、話し合いに応じる様子はない。ならば、最後の手段を執るしかないのではないか。体勢を立て直したシャイニング・レディと何気なく顔を見合わせる。
「ここは一時休戦しよう」
「仕方ないですね」
ふたりは同じ気持ちだった。正義の味方と悪の組織の共闘……互いに屈辱であったが背に腹は代えられない。