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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第2話
登場!爆裂プリンセス! [#11]


 乱闘騒ぎのせいですっかり気が削がれてしまい、買い物は明日に回すことにした。それもすべてクリーナーとシャドーたちのせいなのだ。日登美荘に戻る途中で日之本は首を捻った。
「魔女って本当にいたんだな。使い魔っていうのも腹話術じゃなかったし、トリックじゃない。あれは本物の魔法だった」
 しかつめらしい顔つきの彼を見て、アイベリーも考え込んだ。
「普通に聞いてるとかなり電波な発言なんだけど、アイもそのあたりはマジだと思ってる。もしかしたら別世界から来たのかもしれないやね」
「そんなばかな。子供の妄想じゃあるまいし」
「歴史上、人間はその時代の科学で解明されてないことがらを魔法って呼んでたからね。だから、現在、アンタの理解を超えているあれをアンタが『本物の魔法』って呼ぶことは当を得ていると思う。ふふん、そう考えていくと、現代科学の最先端のそのまた先にいるアイも魔法的存在といって差し支えないのかもしれないね」
「小難しいこと言ってるな」
「アイが言いたいのは結局のところ魔法ってものも、何かしらの法則に従うように存在してるってことで……ん? あれ、なんだろう?」
 アイベリーが前方に何かを見つけた。電柱のすぐ脇である。丁度ゴミの集積所となっていて、黄色いゴミ袋が山積みになっていた。
「ああ、これ、明日の朝、回収するやつだろ? もう出している人がいるのか。ちょっと早すぎるよな」
「違う違う、そういうことじゃなくて、アレだって」
「ん?」
 そのゴミ袋に半分埋もれるように何かが乗っていた。にょきりと飛び出していたものは、どうやら……。
「足!?」
 日之本が目を凝らしてよくよく見ると、確かにそれは人間の足のようだ。
「え、人形……か?」
「ううん、本物……アイにはわかる。有機体の物質反応があるもの」
「と、いうことは……まさか、死体!?」
「マジかー、マジかー!? なんで!? どうして!?」
 日之本とアイベリーはふたりそろって騒ぎ出した。
「わっ、どうする、どうする!? 警察に連絡する!? 117番かける!?」
「ままま、待てっ、警察……というか、ただの行き倒れってこともありうるぞ、生きていたら救急車だから117……ってそれは時報だぞ!」
「そうそう、そうだったよ! でも、電話、電話はどこっ……あっ、電話ってアイのボディーじゃーん!」
 アイベリーは非常に動転していて、パシンとおでこを叩く。
「と、とにかく様子を見てみよう」
 日之本は恐る恐るゴミの集積所に近寄ってゴミ袋を覗き込む。
「どう、バラバラ死体かな?」
「怖いこと言うなよ、五体満足のようだぞ」
「つまり、五体満足の死体ってことかな」
「そ、それも確認してみるから、おまえはおとなしくしてろ」
「うっ、うん」
 アイベリーは黙り込んで、クールフォンの中に潜り込み、そっと様子を窺うことにした。
「だだだ、大丈夫……ですかぁ?」
 日之本はそっと声をかけた。
「……うぅん……」
 すると小さな声が聞こえた。生存確認! ひとまず日之本は安堵した。しかし、次に倒れている人物の姿を見て意外に感じた。それが少女だったからである。
「どうしたんですかぁ」
「む、むぅ……んっ……どうしたと言われても……あの無礼者どもが、わらわに刃向かいおって……」
 少女は空高く弾き飛ばされたシャドーであった。そのまま空中で邪姫丸と離ればなれになり、この集積場に落下した。その衝撃でシャドーは気絶して変身が解け、今はまほの姿をしている。意識を取り戻したまほは、ゆっくりと目を開けて、口の中でぼそぼそとつぶやいた。
「くぅ、不覚であった……確か空高く飛んだような気がするが、その後、どうなったのじゃ? はて、ここはいったいどこじゃろうか」
「ゴミの中……だね」
「むぉ!? ゴミの中!?」
 まほは辺りを見回して驚いた。確かに周りでごわごわしているのはゴミ袋だった。
「な、なんということか! なぜこのようなことに!?」
 まほは屈辱で顔を真っ赤に染め、さらに怒りで余計に赤くなる。
「これもみなあの無礼者どものせいじゃ! おのれ、次にまみえるときはただではすまさぬぞ!」
 目の前の少女がいきなり怒り出す――ついさっき、こんなシーンを目にしたような気がする――と軽いデジャブを覚えながら日之本はまほを見つめた。ひととおり憤慨したまほは、目の前に立っている日之本に気がついた。
「な、なんじゃ、そなたは」
「あ……えっと……た、立てる?」
 日之本はまほに手を差し出した。
「なっ……あ……う、うむ……」
 一瞬、言葉に詰まったまほだが、促されるままにそっと手を伸ばして日之本の手をつかんだ。日之本は力強くまほの小さな手を握り、腕を引いてまほをゴミ袋の中から救出した。
「あの……いったい何があったの……かな?」
 日之本が訊ねたが、まほは身じろぎひとつしない。
「あ、ケガしてるみたいだ」
「むぉ? あ……」
 まほの指先には小さな切り傷があった。どこかに引っかけてしまったのだろう。日之本は、デイパックから絆創膏を取り出した。
「本当は消毒してからの方がいいんだけれど、とりあえずね」
 日之本はまほの指の傷口に絆創膏を貼った。まほは指先を眺めた後、改めて顔を上げた。そして、日之本の顔を穴が空くほど凝視した。そのときバタバタと近づいてくる足音。
「まほ様ぁ」
 まほが振り向くと同時に、走り寄ってきたしもべがまほにギュッと抱きついた。
「ご無事でしたか……!」
「う、うむ……平気じゃとも」
「……よかった」
 しもべは心の底から安堵の表情を浮かべていた。ジャスティーダに飛ばされて、気がついたら隣にシャドーがいない。ずっと彼女の身を案じていたのである。
 結局、日之本は彼女らの素性も知らなければ、まほがここに倒れていた理由もわからないままだったが、当面の問題は解決したとみてよいに違いなかった。結果オーライである。
「よかったね。お迎えも来たみたいだし。じゃ、俺はこれで」
 微笑んだ日之本はその場を立ち去った。しばらくして、感涙にむせんでいたしもべがやっとまほから離れる。
「んー、無事で何よりです」
 しかし、まほはずっと口を開けたまま。心ここにあらずといった様子だった。
「まほ様……?」
 しもべが訝しげにまほの顔を覗き込む。
「なんと」まほは小さくつぶやいた。
「なんという紳士であろう! わらわは……感動した! かの者のあのエレガントなる振る舞い、わらわの心にそよぐ薫風よ! この醜く汚れた世界にも心の清い者がおったではないか!」
 そして両手を胸の前で組み合わせて大きな声を張り上げた。
「決めた……決めたぞ! 邪姫丸! あの者をわらわの婿にする!」
「おー?」
 まほは力説する。
「あの者は見ず知らずのわらわの身を案じてくれた。しかも見返りを何も要求しなかったではないか! あのような気高き精神の持ち主こそ、わらわの婿にふさわしい!」
「ふむ……」
 しもべは重々しく相槌を打った。この短時間でいったい何があったかと思ったが、聞いてみればひとまず理屈として納得はいった。まほの意向となれば、なるべく添いたいものだが……それにしても非常に突飛である。
「それは……実にお目が高い。ですが、気になるのは、お互いに、好き好き、であるか? ということですが……」
「それじゃ! あの者は……きっとわらわのことを好いておる! 何しろあの者は……その……手を……わらわの手を取ったのじゃぞ!」
「おおおっ、なんと大胆な」
「そうであろう!? これはもう……結ばれるしかないではないか!」
 まほは顔を赤らめ鼻息荒く結論づけた。
 しもべは考えた。彼女は日之本をちらりと見ただけだが、人畜無害そうな顔をしていたと思った。確かに刻魔界ではシャドーを名門貴族リュート家の一員と知ってごまをするように近づいてくるものが大勢いた。だが、先ほど見た男はまほの正体を知らない。それなのに親切にするとなると、おそらく善人であろう。それでいてまほに好意を持っているのであれば非常に喜ばしいことだ。
「なるほど……まったくです」
「ですが、その者は……もう行ってしまいましたが……」
 しもべが聞くと、まほはそこで初めて日之本にが既にいないことに気がついた。
「な、なんと!? もう、照れ隠しにもほどがあるではないか!」
「ふむふむ……お目が高い」
「とにかく、あの者の後を追うのじゃ、ゆくぞ、しもべ! あの者を逃してはならぬ!」
「では……ストーキングをすると?」
「その通りじゃ、今からストーキング大作戦を開始する!」



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