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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第3話
究極で至高な食糧問題 [#1]



「ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!」
「ああ、もう、いい加減にしろよぉ!」
 日之本は跳ね起きた。既にアイベリーはクールフォンから身体を外に出して踊っていた。
「いい加減にさせたいんだったら早く起きること! 十一時になるところだよ」
 日之本はのっそりと起き上がった。今日の授業は午後からなので余裕はあるが、確かに自堕落に寝ていてよいというわけでもないだろう。
 起こしてもらっているのだから文句は言えない立場だが、もう少しだけ、この『目覚まし』がおとなしければいいのにとよく思う。
「アイは何にも間違った事はしてないんだからね。はいはい、急ぐといいよ!」
 特に口調が得意気でなければ。アイベリーは常に元気である。

 * * *

「日之本殿!」
 着替えて外に出た日之本は、アパートの前で早速、新たなる入居者のひとりと出会う。元気いっぱいの麻穂沢まほである。
「お、おはようなのじゃ!」
 昨日、出会ったばかりだが、まほはすっかり日之本に懐いていた。理由はよくわからないが、持ち前の性格であろうと日之本は判断した。まほが妙に目をキラキラさせたり、上目遣いで日之本の顔を覗き見るようにしていたり、もじもじしているところが気にならないあたり、残念な男子である。
「おはよう。きちんと眠れた?」
「も、もうバタンキューの朝までぐっすりなのじゃ」
 麻穂沢姉妹の203号室への入居は、昨日の夕方、急遽決定した。突然すぎて、ろくに生活の準備もできていないのは日之本以上。せめて寝場所くらいは用意しなければと、綾乃が予備の布団を引っ張り出して貸したのだった。
「日之本殿はどこかにお出かけであるのか?」
「学校に行くんだよ」
「が、学校とな!?」どういうわけか、まほはぎょっとした。「そ、それはまた大変であるなぁ」
「大変ってほどでもないけど」
 とは口にしたが、実は彼には生活費をどう確保するかという問題があり、この先どうなるかは不明だ。できれば、のんきな学生として生活を続けたいところではあるが。
「なんとぉ! それほどでもない、と申されるのか!? それは真であるかの!?」
「う、うん、まあ」
「むおぅ、すごい、日之本殿はすごいのぉ! わらわが勉学に勤しんでいるときは、とても苦痛であったぞよ……。ぶるるっ、思い出すと……いやいやいや、ろくでもないことばかりであったからのっ」
「ははは……まあ、人によっていろいろあるだろうけどね……」
 日之本は力なく笑った。まほの言うことはよく理解できなかったが、勉強に対して苦手意識があるらしいことはわかった。
「それを大したこともないと片づける! 本当に日之本殿はすごいの!」
 まほは非常に感心していた。日之本としても、持ち上げすぎだと思うものの、けっして悪い気はしない。自然と口角が上がる。まほも微笑みながら、その顔をじっと見つめる。ふっと日之本の頭に疑問が浮かんだ。
「そういえば、まほちゃんは学校は?」
「なぬ?」
 まほはきょとんとして聞き返す。
「うん、普通なら学校に行ってる時間かなって思って」
「わらわが学校に? あのような汚らわしい者どもが群がる場所など、ばかばかし……」
「ん?」
「あっ、い、今は行っておらぬぞっ。何しろ、そう、こちらの世界に来たばかりであるからの!」
「ああ、そりゃ、そうだよね」
「うむうむ。そう、そのうち、きっと行くぞよ。そのうちな」
 まほはすぐに取り繕った。真実を告げるにはまだ早く、しばらく様子を見ようというのがしもべとの取り決めである。日之本が納得したところに、そこに綾乃が歩いてきた。
「おはようございます」
 挨拶を交わしたところで、まほがにこやかに頭を上げた。
「園川殿。昨日はまこと助かった」
「お役に立てたらよかったです。それで、こちらにお住まいということであれば、正式に契約をしないといけないのですけれども……」
「むぉ、契約……そうであるな」
「えーと……それで保護者の方は……」
「保護者! それは……えーと、そうじゃ、しもべじゃ」
「しもべさんが……保護者……ですか」
 綾乃と日之本が一瞬、目を合わせる。確かに考えてみれば、この年齢の少女がいきなり出たとこ勝負といった様子で引っ越してくるのだ。高確率でかなりのワケアリではなかろうか。その上、姉が保護者ということであれば、なおさらだ。そのあたり、日之本はあまり詮索はしない方がいいのではと思ったが、さすがに綾乃はそうはいかなかった。
「では、しもべさんも含めてお話を。いろいろ手続きがありますし……このアパートの規則とかも話しておきたいですから」
「む、そ、そうじゃな」
 まほが焦った顔をする。そこに妙にテンションの低い唸り声が近づいてきた。声の調子と連動するかのように身体をふらつかせて歩いていたのは、その本人、麻穂沢しもべであった。
「うう〜……おはようさまなのです」
「しもべさんはよく眠れ……てなさそうですね」
 しもべは首を横に振った。
「おなかがすいて、よく眠ったかわからない……でした。昨日の連続発射で……おなか……ぐーぐー……です」
「はあ」
 日之本と綾乃は、いまひとつどう反応していいかよくわからなかった。ひっきりなしにしもべの腹の虫は激しく鳴いていたので、空腹のあまり人心地がついていないであろうことはわかった。
「おなか……すいたー」
 しもべはまほの側に寄り、まほの服の袖をつかんでキュキュッと引っ張った。
「まほ様……ごはん……食べよー」
「う、うむ、そ、そうじゃな……食事をしたい、そうしようではないか。ということで園川殿! その件は、また後でお願いするのじゃ!」
「あ……はい」
 綾乃は微笑んだ。
「では、どうつじつまを合わせるか、話してくるのじゃ、いくぞ、しもべ」
 まほはそう言うと、しもべの手をつかんでアパートの外に走っていった。
「なんだろう」
「はて……」
 日之本と綾乃の独り言がかぶったとき、突然、クールフォンが震えて日之本がびくりとした。アイベリーが時間をロスしていることを知らせたのだった。日之本は学校に行かなければいけなかったことを思い出した。
「ええと……じゃあ、俺も出かけてきます」
「あ、はい。いってらっしゃい」
 綾乃は微笑んで手を振った。



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