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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第3話
究極で至高な食糧問題 [#6]


 ジャスティーダは駆け戻った。
「待てーい!」
 しかし、買い物に夢中の一般客とその対応で大わらわの戦闘員たちはいっさい取り合わなかった。
「えーと……」
「またあなたですか!」
 しかし、シャイニング・レディだけはきちんとジャスティーダの声を聞き分けて応えたので、彼は少しだけ救われた気がした。
「今日も私たちの邪魔をするつもりですね? 営業妨害で訴えますよ!」
「訴えるのは消費者のみなさんだ! 変なものを売りつけようとして!」
「失礼な。これは立派なダイエット食材です。事実、これだけを飲んで過ごせば、ごっそりと体重を落とす事ができるのですよ」
「そんなことわかるもんか。だいたい、その激やせした戦闘員だって同一人物かわかりゃしないだろうが。見たことがあるぞ。ビフォアとアフターで別人の写真使ってた広告を」
「私は嘘は言いません。その戦闘員は本当に減量しています」
 ジャスティーダは考え込む。シャイニング・レディは堂々としていて、どうも嘘をついているようではなさそうだ。激やせ戦闘員はチワワみたいに足をカクカクさせて今にも倒れそうだった。いきなりやせるとバランスが取りづらくなるのかもしれない。
 しかしである。ジャスティーダの脳裏に天啓が下った。
「その商品の中身……水?」
 無言のシャイニング・レディ。つまり、正解である。
「おいおい、それ、ただのミネラルウォーターだろ! だったら1週間それしか飲まなかったらやせ細るに決まってる! ごっそりどころか、げっそりだ!」
「誤解のないように言っておきますが『ノンカロリーウォーター』はミネラルウォーターではありません。水道水です」
「水道水!」
 水資源が豊富な我が国では多少の差こそあれ、どの地域でも格安で手に入る! ほぼ元手が要らない、画期的な商売!
「ついでに言うと、容器はリサイクルで回収したペットボトルを使用していますし、環境にもとても優しいのです」
「リサイクルで……って、まさか、洗って再利用してるのか!? おいおい! OLさんのマイペットボトルかよ!?」
「とても安上がりですみますね」
「小売価格は!?」
「1本250円です」
「ボロ儲けだ!」
 ジャスティーダは絶叫した。それ見たことか、なんというとんでもない悪事であったか! しかし、シャイニング・レディはジャスティーダを鋭い目つきで睨み返した。
「おそらくはあなたが思う以上に経費も手間もかかってますし、そのセリフはとても心外ですが、一応、それはいち消費者の意見として参謀に報告しておきましょう」
「えい、ごちゃごちゃぬかさず、今すぐ販売を停止しなさい! さもなくば力尽くでやめさせる!」
「では、戦いはけられませんね。戦闘員たち!」
 シャイニング・レディは戦闘員たちに呼びかけた。ところが誰も集まってこなかった。それどころか返事すらない。どうしたのかと彼女が振り向くと、そこは既に別の意味での戦場と化していた。
「それ5本買うからね!」
「私は20本よ!」
「ちょっ、押さないでよ!」
「おつり少ないわよ!」
「なんでカードが使えないの? 現金なんて持ち歩くわけないでしょ!」
「イ、イー」
 右往左往する戦闘員たちを見て、シャイニング・レディは目を丸くした。
「あら……忙しそうですね」
「むう、『ノンカロリー・ウォーター』大人気だな。ダイエット効果、恐るべしといったところか」
「どうしましょう。あんな状態なのに無理に呼びつけるわけにもいきませんね……あ! ひとり見ぃつけた!」
 シャイニング・レディが嬉しそうに指さした。
「激やせサンプル戦闘員!」
「イー!?」
 ふらふらの戦闘員はいきなり指名されて面食らったらしく、声が跳ね上がった。
「そうです。客寄せが成功した今、あなた、する事ないでしょう!?」
「イーッ!?」
「人手が足りないのは見てわかるでしょう! いいから戦いなさい!」
「イー」
 ガリガリの戦闘員が仕方なさげにジャスティーダの前に歩いていく。
「では、相手になってやろう!」
 ジャスティーダがパワーフィールドのスイッチを入れる。輝く粒子がグローブを包み込む。
 ジャスティーダはおどおどしながら飛びかかった戦闘員の手首をつかみ、ひょいと上に放り投げた。
「イー!?」
 戦闘員はあっさりと吹き飛び、地面に落ちて転がった。なお、彼はジャスティーダがこれまでに投げた戦闘員の中で1番軽かった。シャイニング・レディが首を振る。
「ダイエット直後の激しい運動には無理があるのでしょうか」
「そうだな。かわいそうだったんじゃないか」
「結局、また私の出番になるのですね」
 シャイニング・レディがパワーフィールドのスイッチを入れながら、ジャスティーダの前に歩み出た瞬間!
「待てーい!」「待つですみゃー」
 シャドーと邪姫丸の高らかな声が響いた。ジャスティーダとレディは、動きを止めて、そのちん入者を見やる。
「おまえは、昨日のお騒がせ娘か」



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