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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第3話
究極で至高な食糧問題 [#7]


 ジャスティーダを視認したシャドーはびくりとして叫んだ。
「むぉぉ!? わらわを吹き飛ばした無礼者も一緒であったか!」
「おぬしら、ふたり揃ってまたろくでもない事をしようと企んでおるのじゃな!」
「なんですって!? この方と一緒にしないでください!」
「そうとも、こいつと一緒にするな!」
 シャイニング・レディとジャスティーダが憤慨し、シャドーはふたりの剣幕にたじろいだ。
「いいかよく聞け。俺はこいつの悪事を止めようとしていたのだぞ!」
「私だって悪の組織の活動としてダイエット食品を売っていただけです!」
「わかったか? 俺たちを一緒くたにするな。人聞きが悪い」
「そうですとも。心外の極みです」
「むぉ……そ、そうであったのか? であれば、わらわの早とちりであるな」
 シャドーは非常に申し訳なさそうな顔をした。根はとても素直なのである。だが、言いたいことが言えていない気がして首をかしげ、少し考えて思い出した。
「いやいやいや、そんな事でごまかされはせぬわ! そなたらのせいで、わらわも邪姫丸もひどい目に遭ったのじゃ! その事実は決して変わらないのじゃ!」
「そうですみゃ。邪姫丸もそのせいでとても痛い思いをしたし、おなかもぺこぺこになってしまいました」
「そう、ぜんぶ、ぜーんぶ、そなたらのせいなのじゃ!」
「あの……どういう事かさっぱり見当がつかないのですが」
 シャイニング・レディはシャドーと邪姫丸の立て続けの文句に首をひねった。ジャスティーダもまったく同じ気持ちだった。
「空腹だと? ははあ、つまり八つ当たりというわけか。人間は腹が減ると怒りっぽくなるというからな」
「確かに邪姫丸もわらわも、今日はとてもとてもおなかがすいておる! それがそなたらのせいだと言っておるのに、なぜわからぬのじゃ?」
 ジャスティーダとシャイニング・レディは互いに顔を見合わせた。ジャスティーダはシャドーの方を向いて諭すように言葉をかける。
「なあ、やはり、食事はきちんとしておいた方がいいぞ。特に朝の食事はとても大事だ。朝食を摂ったかどうかで、その日の頭の動き方がまるで違うからな」
「それだけじゃありませんよ。あなたは見たところ、まだまだ成長期。いまのうちにしっかり食べておくのがいいと思います」
 ふたりがかりで優しく説得され、今度はシャドーがたじろぐ番だった。
「むぉ……わ、わらわとて、食事はするべきだということくらい、わかっておる! じゃが、そうは言っても……仕方あるまい? 今日はてんてこ舞いであったのじゃ」
「仕方なかったですみゃ」
 ジャスティーダは自分の事情を思い起こして、妙に納得した。今日は自分だって食事をしたかった。でも、できなかった。仕方がない、としか言えない気持ちは同じだな、と。
「確かに人それぞれ事はあるか。何を隠そう、俺も今日は食事抜きだったからな」
「あなたもだったんですか。みなさん、そろってダイエットをなさってるのですね」
 述懐するジャスティーダをちらりと見て、ひとり勝ち誇ったかのようにくすりと笑うシャイニング・レディ。しっかり朝食を摂っている者の余裕なのだろう。半分当てこすりのような発言である。
「だとしたら何も問題ないではありませんか。我が社の『ノンカロリー・ウォーター』はそんな方のためにあるのです。この機会に試してみてはいかがです?」
「俺はダイエットしているわけではない! だいたい、そこまですごい商品だっていうなら、おまえが試せばいいだろう!」
「なっ」
 瞬間、シャイニング・レディの顔色が変わる。
「抜群の効果だって言うなら、おまえが実際に使ってみろ。ぐびぐび飲めばいいじゃないか!」
「わ、私にダイエットが必要だとでもっ!?」
 シャイニング・レディはすごい剣幕で怒鳴った。これまでで一番すさまじい怒声だった。
「い、いやっ……そ、そういう意味で言ったわけでは……」
「では、どういう意味で言ったのですか! このダイエット商品を私に試せという発言に、他にどんな意味があると!?」
「な、何をあんなに怒っているのじゃ?」
「さ、さあ?」
 シャイニング・レディの鋭い目つきに怯えるジャスティーダとシャドーだったが、そんな彼女を見てジャスティーダはピーンと来た。
「わかったぞ、そういうことか」
「っ! 何がわかったと!?」
 ジャスティーダはひるみながらも言葉を続けた。
「だから……そのダイエット食材販売の、真の目的だ」
「え?」
 それにはシャイニング・レディも虚を突かれた。てっきり先ほどの発言に対する何かしらの弁明が来ると思っていたのだ。
「おまえを見ていて閃いた。つまり、この食材を利用して無理なダイエットをさせ、人心をすさませる! そのような、とてつもない悪事であったのだな!」
 ジャスティーダはシャイニング・レディを指さして力説した。内心、また激高するかと思って半分構えていたのだが、予想ははずれ、シャイニング・レディはしばらく黙っていた。彼女は一瞬、ジャスティーダの無礼な発言は忘れていた。実は彼女は今回の作戦の意図を把握していなかった。それも参謀がきちんと任務の目的を説明しなかったからである。そのため、ジャスティーダの推理は理にかなっているように思えて合点がいった。
(『あの子』の秘密主義にも困ったものですね)
 シャイニング・レディは内心ため息をついた。
「おい……どうした?」
 ジャスティーダに話しかけられシャイニング・レディは余計な思考を追い払った。今考える事でもない。
「なんでもありません」
「そうか? ……で、どうなんだ? 俺の言ったことは当たってるのか?」
「多分、そうでしょう」
「なんで推定なんだ?」
「まあ、よいではありませんか」
「うーん? そうなのか?」
 シャドーも訝しげな顔を向けていた。共にシャイニング・レディの心中を察するのは不可能であった。
「まあいい。それよりもだ。他にも言いたいことがあったんだが、言っていいか?」
「……言ってごらんなさい」
 ともあれクールダウンしたシャイニング・レディだった。ジャスティーダはほっとして、ひとつ咳払いをして話し出した。
「さっき、俺はとても空腹だという話をしたな。しかしだ。俺はこれから、とある人の心のこもった手料理を食べさせてもらえる事になっている」
 誇らしげに語るジャスティーダを見て、シャドーも腕を組み、大きくうなずいた。
「むぉ、奇遇じゃな、わらわもじゃぞ。今日はわらわも心づくしの食べ物を馳走になる予定なのじゃ」
「邪姫丸もおなかぺたんこですみゃー。早く食べたいですみゃー」
 ジャスティーダが素早くシャイニング・レディを指さした。
「おまえだって他人の作った料理を食べる事があるだろう! または逆に誰かに料理を振る舞うこともあるのではないか?」
「そう言われると……確かに私も今日は知り合いのために料理をする予定がありますが」
「ならば話は早い。そんな折り、食べる人間がダイエットなどしていたらどうなると思う! 心のこもった料理を味わう事ができなくなってしまうではないか!」
「まあ、それは……」
 シャイニング・レディの語気がわずかに弱まる。一瞬にして、有利な立場に立てたと確信したジャスティーダは両手を広げ、聖人のように諭した。
「食事とは生きるために不可欠な要素。だが、社会的な営みを行うヒトにとって、既に欲求を満たすためだけのものではなくなったのだ。すなわち……料理は人をつなぐものではないか。おまえたちの悪事は『食の本質』をはき違えたものだ。それをもって『究極』などと叫んでグルメごっこを気取ったところで、誰を納得させる事ができようか」
 ジャスティーダの演説に納得してこくこくとうなずいていたのはシャドーだった。
「まったくであるな。好きなものをたくさん食べて何が悪いと申すか」
「そうですみゃ。おなかが減るのはよくないですみゃ」
 シャイニング・レディも両手の指をこめかみに当てて目を閉じる。言われてみれば、その通り。
「ごもっともではあるのですが、あなた方が私たちの邪魔をしているのは変わらないでしょう」
 ジャスティーダは落胆した。これだけ丁寧に食事のありようについて語っているというのにわかってもらえない。
「やはり実力行使しかないということか」
「それは私のセリフです。あなたもとても頑固な方ですからね」
「待てい! わらわを無視して勝手に話を進めるな!」
 シャドーも慌てて会話に加わった。ついついふたりのペースに巻き込まれ、一緒に話し込んでしまったが一矢報いるために来たことを思い出した。一端冷却されていた怒りの鉄槌は、一瞬のうちにまたも焦熱を極めた。
「ジャスティーダとやら、確かにそなたの言うとおりであるな。そなたらのような手合いにはやはりお仕置きあるのみということじゃ! この前は不覚を取ったが今回は負けぬ」



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