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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第3話
究極で至高な食糧問題 [#8]


 邪姫丸に合図をして、シャドーが構える。しかし、すぐに邪姫丸がみゅうと小さく鳴いた。
「姫様、おなかがすいてて力が出ないですみゃ」
「なに? 今さらそんなことを言われても困るぞよ! 『漆黒のリグレット』を撃つつもりであったのに」
「邪姫丸ビームを撃ったら、倒れてしまいますみゃ」
 弱々しい邪姫丸を見てシャドーも心が痛む。頑張れと言いたいところだが、今日、邪姫丸が食事をできなかったのはそもそも彼女のせいでもある。人のよい彼女は、そんな後ろめたい想いを抱いたまま戦うことはできなかった。
「では『深紅のディスパイア』じゃ! それにわらわの魔力も使うとよい! それならなんとかなるであろう」
「姫様の魔力を使っての『邪姫丸ファイヤー』ですみゃ? 確かにそれなら大丈夫そうですみゃ」
 交渉は成立。シャドーは不敵な笑みを浮かべ、邪姫丸は目をつぶって大きく口を開いた。邪姫丸がすうっと息を吸い込むと、邪姫丸の身体とシャドーの手元がぼんやりと光った。シャドーの魔力が邪姫丸に注ぎ込まれている。
「ぽわわわわー!」
 次第に邪姫丸の口の周りに熱が集中し、陽炎がゆらめき始める。
「まずはあの無礼者じゃ!」
 シャドーはジャスティーダに邪姫丸の頭を向けて狙いをつけた。
「また変なものを飛ばすつもりか? てことは、当たったら大変なことに……」
 ジャスティーダが注意を払った次の瞬間、邪姫丸の口から真っ赤な炎の塊が飛び出した。
「なるよなぁ!?」
 咄嗟にジャスティーダは身体を斜めにひねり、一直線に飛んできた火の球をけることに成功した。火の球はジャスティーダの後方に飛んでいき、路上販売用の机に当たった。ゴウっと激しい音がして、たちまち机が炎に包まれ、戦闘員と客たちが驚いて離れる。
「イ、イー!」
「きゃー!? 何!?」
「いやー!!」
 成り行きを見守っていたギャラリーも含め、みんな突然降りかかった災厄から逃がれようと大慌てだった。ジャスティーダは炎上する机を見て、もしかしたら自分もああなっていたのかと肝を冷やした。
「何をするんだ! 危ないじゃないか! 放火は犯罪だぞ!」
「そうです、子供が火遊びなどするものではありません!」
 シャイニング・レディもジャスティーダの言に雷同した。自社製品が売り物にならなくなったのであるから、筋としては当然のことだ。だが、シャドーはまったく聞いていなかった。机を焦がす真っ赤な炎を見つめ、ぶるぶると身体を震わせていたのだった。
「むぉ、けた、けおったぞ! おのれ、生意気な! 邪姫丸、もう一度じゃ! 連続発射じゃ」
「『邪姫丸ファイヤー・フルオート』ですみゃ!」
 すぐに邪姫丸が大きく口を開けて火の球を立て続けに吐き出した。
「わっ、わっ、わー!」
「きゃ!?」
 ジャスティーダもシャイニング・レディも必死になって飛来する火の球をけ続けた。火球は先ほどのものより小さく威力も弱かったが、当たればかなりのダメージを受けることは疑いなく、当然のごとく辺りを大惨事へと導いた。火の球はビルの壁にぶつかり、ガードレールに黒い焦げ目を作り、アスファルトの上を勢いよく走り抜ける。街の人々はパニック映画のエキストラよろしく派手に悲鳴を上げ、口々に火事だ、消防車を呼べと叫びながら逃げ惑った。
 ジャスティーダは、昨日と同じような展開になっているなぁと思った。とにかく街全体が荒野になってしまう前になんとかしなければ……そう思った矢先である。シャドーの身体がゆらゆらっと揺れたかと思うと、邪姫丸の口からは細く黒い煙が上がり、シャドーはその場にばたりと倒れ込んだ。
「無念……わらわも限界じゃあ」
「みゅー。姫様の魔力を借りてもつらかったですみゃ」
 空腹なところに強大な魔力を使う魔法を連射したのだからスタミナ不足になるのは当然である。
「うう、無礼者どもめ……今日のところは……許してやる」
「は?」
「さらばじゃぁ」「さらばみゃぁ」
 シャドーはなんとか立ち上がると、よろめきながら立ち去っていった。その姿があまりにも弱々しかったため、ジャスティーダもシャイニング・レディも、手を貸さなくていいのだろうかと思ったくらいだった。
「なんなんだ」
 しかし、これで街が炎上の危機にさらされることはなくなった。何がいけないだろうか。シャドーたちの姿が見えなくなった後、ジャスティーダとシャイニング・レディはなんとなく視線を合わせた。
「邪魔者はいなくなったな。続きをやるか」
「今日のところは撤退します」
 シャイニング・レディはため息交じりに言った。
「商品がこんなになってしまっては活動しようにもできません」
 群がっていた客や野次馬たちは既に逃げていたが、その後ろでは戦闘員たちが焦げた机や散らばったペットボトルを集めていた。売り物だった水のほとんどを消火に使ってしまったらしい。確かに、これから頑張って戦おうという雰囲気ではなかった。実際、ジャスティーダも、これからまた一戦交えるのか、と内心うんざりしていたのも事実だった。
「そうか。今回は街の被害が少なく済んで何よりだったな」
「そういうことにしておきます」
 シャイニング・レディはひとつうなずき、戦闘員たちに告げる。
「さあ、みんな、引き上げますよ!」
 倒れていた激やせ戦闘員もなんとか起き上がり、みんなしてほぼゴミと化した荷物を抱えると、シャドーと同じようにふらふらしながら歩き出した。
「……よい晩餐を」
「……お互いにな」
 シャイニング・レディは立ち去る間際にジャスティーダに向けて叫び、堂々と撤収した。
「結果オーライ! 正義は勝つ! では……さらばだ!」
 悪のいない場所に正義の味方は必要ない。見事に使命を果たしたジャスティーダも早々に立ち去ることにした。遠くから消防車のサイレンが近づいてきた。だからというわけではないのだが……ジャスティーダは走り出した。



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