人世一夜の日登美荘
第4話
分別なき分別 [#1]
「ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!」
と、日之本の1日が始まった。律儀に起こしてくれているのだから、やかましくても感謝しなければならないと思うことにする。今日は朝から授業がある日なのだ。着替え終えて荷物を持ち、外に出ようとした時、さらにアイベリーが続報を告げてきた。
「おーい、忘れ物だよっ」
アイベリーが指さしたのはゴミ箱だった。
「そうか、ゴミの日」
この地域での可燃ゴミの回収は火曜と金曜の週2回。金曜の今日を逃すと来週の頭まで回収がない。食事もレディーメードの弁当やカップラーメンばかりで、そこそこの量のゴミが溜まっていた。日之本は急いでゴミをかき集め、大きな黄色の専用ビニール袋の中に放り込み、袋の口をきゅっとしばった。
「教えてくれて助かったよ」
「アイの住みかが汚部屋になるのはご勘弁願いたいからね。ほんの数日でいっぱい溜め込んでるし。アイが見てない間にほら……ティッシュなんか、ずいぶんいっぱい使ったでしょ」
「鼻のむずむずがすごくてな。片づけで埃が舞ったんだろうな」
「えっ……鼻?」
と、なぜかアイベリーが目を丸くする。
「あ、そうか。なるほどなるほど、鼻か。ああ、そうかぁ。あはははは」
そして頬を赤らめながら、なにやらひとりで納得した。
「なんだよ?」
「いやいや、びっくりしちゃったわけよ。こんなにたくさん使ってるんだもの」
「あ?」
「このヒトもいろいろ大変なんだなぁ、やれやれ……とか思っちゃったよ。しかもアイの目を盗んでこそこそとってことでしょ? とすると、なんというのかねー、背水の陣でしょ。切羽詰まってたのかなって、ある意味、見上げた努力というかね」
「……!?」
「そっかそっか、鼻ね、そっちかぁ」
「そっちかぁじゃない! いったい何を考えた、おまえは! バカ言ってるんじゃない!」
「バカじゃないもん。そもそも誤解されるような量のティッシュ使う方がいけないんでしょがっ」
ぷーっとふくれるアイベリー。
日之本は完全に無視することにして大きなゴミ袋を持つと外に出た。