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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第4話
分別ふんべつなき分別ぶんべつ [#3]


 学校帰りに町枝駅の近くを歩いていた日之本は、そこかしこの集積所にゴミ袋がたくさん積んであるのに気がついた。散らばっているゴミは地区によって異なり、既に可燃物に不燃物に資源ゴミとバラエティに富んでいた。けっこうな広範囲にわたって回収されていないらしい。収集は当然、町枝市が管理しており、依頼されている業者がいるはずなのだが……。
「なんだろ。スラム化まっしぐらって感じ」アイベリーも眉を曲げる。「ほったらかしなんて……お仕事、怠慢だよねー」
「連休ってわけでもないしな」
「でも、ここいらの残骸の一部はアンタのせいじゃないかな」
「うっ」
 確かに、数日前からこの市では炎の塊が飛び交い、コンクリートが飛び散り、ガラスが割れる事件が相次いだ。たくさんの瓦礫がれきが混ざっているのはその影響ではないかとも思われる。アイベリーがため息交じりに首を振った。
「きれいな街だったのに。まさか、こんなに景観が損なわれるなんて」
「過去系で言うな。まだ充分きれいだ」
「だとしても、時間の問題のような気がするのだ。きっとまたすぐドッカンドッカンされてメチャメチャになってしまうと、アイは推理する」
「いや、今、街の景観を損ねているのはこのゴミ袋だ。絶対にそうだ」
 その日之本の主張を裏付けるかのように、集積所の一所で腕組みをした近隣のオヤジたちが井戸端会議をしていた。
「困ったもんだ……どうして回収に来てないんだろう?」
「今までこんな事はなかったのに……行政は何をしてるんだ」
「いや、役所でも業者と連絡取ってるんだけど、何かトラブルがあってとんでもない人手不足になってるとかって話ですよ」
「それにしたって今週は全然来てないんだぞ? いくらなんでもひどすぎないか?」
 日之本とアイベリーは顔を見合わせた。
「ね、今の聞いた?」
「うん、なんだか気になるな……人手不足だって?」
「よかったねっ、アルバイトにもってこいじゃない!」
「あのなっ、俺が気になるって言ったのは、どうしてここまで極端な人手不足になっているのかって事だ。そりゃ、人手が足りぬというのであれば、健康なこの身体をちょいと貸して差し上げてもいいかな……とか思わなくもないけれど」
 と、そこにまたオヤジたちの声が聞こえてきた。話に花が咲いたようで、口調が興奮気味である。
「しかも、あいつらが暴れてくれたから、余計にゴミが出ちまった」
「後先考えず迷惑行為を繰り返してたもんな。後始末をする俺たちの身にもなれっていうんだ」
 アイベリーが囁いた。
「今のも聞いた?」
「聞こえたけど……内容はよくわからなかった! とにかく行こう」
 そう日之本がその場を去ろうとしたとき、後ろから綾乃の声が聞こえてきた。
「あ、日之本さん」
「ぉ……!!」
 慌てて日之本はクールフォンを閉じた。直前にアイベリーはさっと身を隠す。
「にひっ……回避成功! そうそう何度もはさまってたまるかー」
「いいから黙ってろよな」
 綾乃はにっこりと微笑み、日之本たちはそのまま並んで歩き出す。
「今日のオツトメはおしまいですか?」
「はい、なんとか。大家さんはどこか行ってきたんですか?」
「丁度、市役所に行ってきたところなんですけれど……」
 そこまで話して、綾乃は周囲をキョロキョロと見回した。
「やっぱり目立ちますね……ゴミ。市役所にも苦情が殺到しているみたいで、職員さんたちもてんてこ舞いだったんですよ」
「へえ……大変そうですね」
 そんな会話を交わしつつ八百屋の前を通りかかった時、店のおやじが話しかけてきた。
「おっ、綾乃ちゃん。相変わらずきれいだねぇ。うちの女房と比べたらもう、月とスッポンというか、カブトムシとゴキブリってトコだね」
「こんにちは、笠原さん。そんな事言って……奥さまに怒られますよ」
「なに、この40年、虐げられるのには充分慣れてるから……お?」
 八百屋のおやじは話を途中で切り、綾乃から日之本の顔に視線を移した。
「あ……ども」
「へぇ。もしかして、綾乃ちゃんの彼氏かい」
「え? ……え!?」
「か、彼氏……!?」
「そうかぁ、ついにいい人ができたかい! 年頃だってぇのに浮いた話ひとつ聞かないからやきもきしてたんだよ」
「あ、あのっ……笠原さんっ」
 綾乃は頬を真っ赤に染めて酸欠のコイのように口をぱくぱくさせて取り繕う。
「あ? ああっ、すまないねっ、そりゃ、恥ずかしいよな。うん、悪かったっ」
「違います、日之本さんは……日登美荘に引っ越してきたんです」
 綾乃は力強く説明すると、笠原はぽんと手を打った。
「え? あ、ああ……店子たなこさんか」
「そうです」
「悪い悪い、てっきり彼氏だと思い込んじまったよ。綾乃ちゃんがすごく楽しそうだったからさ」
「え……そ、そんな……でしたか?」
 目を泳がせる綾乃に、笠原が身を乗り出してこそりとつぶやく。
「……本当に彼氏じゃないの?」
「……違います。ね、日之本さん?」
 綾乃はにこやかに日之本に助けを求めた。
「え?」
 一瞬、彼がまごついたのは、突然、話を振られたためであったが、笠原はその反応をいいように解釈して、にんまりと笑った。
「……ははぁ」
「っ! ち、違いますよ」
「うんうん、そうか。違うんだな。うんうん」
「そうですよ!? 違うんですよ!?」
「わかってる、わかってるとも。そうかぁ、あんなにちっちゃかった綾乃ちゃんが……」
「ちょっ……絶対にわかってないと思いますけど!」
 笠原は感慨深げにうなずき、綾乃は対照的に興奮して目をむいた。
「あの、日之本さん、私はちょっと……誤解を解きたいので、ここで失礼しますっ」
「ああ……はい」
 日之本に告げるやいなや、綾乃はすごい剣幕で笠原に詰め寄った。日之本はそのままひとりで帰路に就くことにした。



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