人世一夜の日登美荘
第4話
分別なき分別 [#5]
「急げ、急げっ……」
ジャスティーダはクリーナーたちの前に飛び出た。
「やはり来ましたか。いつもいつもご苦労なことで……おや? どうしたのですか? 妙に疲れた顔をして」
「ちょっとばたばたしてな。大きなコインロッカーふたつでも入りきらなくて……正義の味方も金がかかる。やはり早急にアルバイト先を探した方がよさそうだな」
「なんのことです?」
「おまえには関係ないことだぞ」
「あなたが勝手にぶつぶつ言ってるんじゃありませんか」
シャイニング・レディはあきれ顔だ。
「そんなことよりも、このゴミ未回収騒動はおまえたちの仕業だったのだな。なんてひどい連中なんだ!」
「業者の方々への損害補償は我が社の負担です。それは悪い事ですか?」
「……確かにそれは悪い事とも言い切れないかもしれないが……また、悪くない事をしてるんだよな」
「ですから、悪の組織の必要悪だということです」
「おまえ、その言葉、免罪符にしようとしてないか? 結局、悪事なら正義の出番はあるというわけだが」
「では、また邪魔をするというのですね! ならば容赦無用。戦闘員たち! いつものようにかかりなさい!」
「イー……!!」
戦闘員たちはここで少しだけ渋った。これまでに3回戦ったがまったく歯が立たなかったのだ。きっと今回も同じことになるに違いない、と、全員が思っていた。容赦無用というのは自分たちの待遇のことではないか、とも。しかし、シャイニング・レディは取り合わなかった。
「とにかく頑張って戦ってみたらどうですか!」
「イー!」
「就業規則違反として取り締まることになりますよ! 給料、下がりますよ!」
「イー!?」
シャイニング・レディの一言で凍りついた戦闘員たちは頭の中の不平不満をすべて取り払い、いつものようにジャスティーダに飛びかかっていった。そして、いつものようにパワーフィールドを使ったジャスティーダに投げ飛ばされ、いつものように宙を舞った。救いだったのは今日はそこそこ高い確率でゴミ袋の上に落ちたので、それほど痛くなかったことだ。ただし、衝撃でゴミ袋は放射状に飛び散った。
「おい、散らかすな! ゴミを集めるのは俺たちなんだぞ!」
「そうだ、これ以上街を荒らすな!」
回収業種の男性と様子を見ていたギャラリーたちも一緒になって叫んだ。そんな喧騒の中、シャイニング・レディはしみじみとつぶやいた。
「いつものようになりましたね。いつものように私が出ないとダメなのですね」
「仕方ないだろうな。俺もいつものようにいくことにする」
ジャスティーダがシャイニング・レディに向き直る。
「と、その前にひとつ提案がある。次からは俺とおまえの一騎打ちから始めていいんじゃないか?」
「それはよろしくありません。私はこの戦闘員たちにも強くあってほしいのです。たとえ相手がどんな強敵であろうと諦めてほしくない」
「ふむ……それは殊勝な……」
「とはいうものの……心に留め置くことにしましょう。確かに、今のところスーツの戦闘力の差が浮き彫りになっていますから」
「うむ、考えてみてくれ。では……そろそろやるか」
「やりましょうか」
ふたりがいつものように突撃しようと構えた途端、
「待てーい!」「待つですみゃー!」
いつものようにシャドーと邪姫丸の制止が入った。ジャスティーダとシャイニング・レディはうんざりした目つきで乱入者たちを見つめた。
「シャドー・ヴァン・リュート、そなたらに報復するために参上なるぞ」
「邪姫丸もですみゃ」
「相変わらず穏やかではないな」
「当然であろう、わらわは、そなたらのせいでとてつもなくひどい目に遭い続けておるのじゃ!」
「それなんだが、どうも記憶にないんだよな」
「私も、どちらかというとあなた方の自爆という感じがします」
ジャスティーダは首をひねり、シャイニング・レディもため息をついた。
「とにかく俺は脅迫に屈服などしない」
「私も職務ですから」
「とことん失礼な者どもじゃ!」
シャドーは憤慨した。まったく話が通じない。
「そういう態度を取るのであれば、わらわも強硬手段に出ねばなるまい!」
シャドーが邪姫丸を前に掲げる。
「む! またメガ粒子砲か? それとも放火か?」
「どちらでもないわ! 素直に報復されておればここまでやるつもりはなかったのじゃが、仕方あるまい。身の毛もよだつ、とーんでもない攻撃をくらうとよいわ。邪姫丸、アレをやるぞ!」
「姫様、アレをやるのですみゃ!?」
邪姫丸が目を丸くして聞き返した。
「ふふふ、そうともアレじゃ。やりすぎか? いや、全てあの者どもの自業自得というものよ」
「アレってどれですみゃ?」
「アレといったら『禁圧のサブジェクション』に決まっておる!」
「ああ、わかりましたー。では、魔力、いただきます」
得心した邪姫丸は大きく息を吸い込んで、これまでのようにぽわぽわしだした。すると脇にあった大きなゴミ袋がゆらゆらと揺れ始め、ゆっくりと浮かび上がった。
「ゴ、ゴミ袋が浮いたっ!?」
ジャスティーダとシャイニング・レディはさすがに驚いた。いや、先日のレーザー射出や火炎放射にも相当驚きはしたのだが、今回は現代科学の常識を逸脱していたのだから。
「ふふふっ、まだまだこんなものではないぞ!」
シャドーが不敵に笑うと総数20個ほどのゴミ袋が宙をゆらゆらと舞った。
「あ。なんとなく、どんな攻撃をしてくるかわかりましたね……」
「まさか……ビット……いや、ファンネルかっ!」
「さあ、このゴミどもに埋もれてぶよぶよでドロドロの汚物まみれになってしまうがよいわ! ゆけっ『禁圧のサブジェクション』!」
「みゃー、『邪姫丸ピッチング』!」
邪姫丸がくしゃみをするように、溜め込んだ魔力を周囲にまき散らすと、浮かび上がったゴミ袋がいっせいにジャスティーダとシャイニング・レディ目がけて飛んでいった。
「来たーっ!」