人世一夜の日登美荘
第4話
分別なき分別 [#6]
ふたりは迫るゴミ袋をサッと避ける。思い返せば、彼らが相まみえてからというもの、必ず乱戦になった挙げ句、何かしらを避けている。ジャスティーダの頬をかすったゴミ袋は後方の建物にぶつかり、袋が裂けて派手に中身をとっ散らかした。ちょうどシンクを掃除したのであろう、黒い水垢がこびりついたゴミ取りネットと傷んで茶色くなりかけた野菜クズがびしゃりと地面に落ちた。
「うわ、汚っ」
「こ、これは、くらったらかなりイヤな思いをしそうですね」
ふたりとも背筋が凍る思いをした。先日のレーザーや業火もすさまじかったが、これはこれで確かにとんでもない攻撃なのだ。
「むぉっ、なんとゴミ虫のようにすばしこい輩よ! なんとしてもぶつけてしまうぞよ!」
「かしこまり! すうううううううううう、ぽわわー!」
次に浮かび上がったのは、空き瓶と空き缶が大量に詰まった大きなカゴだった。
「んぱー!!」
今度は邪姫丸はカゴをさらに高く放り投げた。カゴははるか上空でひっくり返って、中の瓶缶は、雨あられとジャスティーダたちの頭上に降り注いだ。さすがに数がある。今度はさすがにすべて避け切ることはできなかった。
「きゃあっ! パ、パワーフィールド!」
シャイニング・レディは頭上で腕を振り回して瓶と缶を弾き、スピードが着いた瓶缶はジャスティーダの脇腹に直撃した。
「ぶぼぉっ!」
「わはははは! ざまをみよ! わらわを侮辱した罰じゃ!
「みゃははは! ざまをですみゃ!」
狼狽するふたりの様子を見て高笑いするシャドーと邪姫丸。
「何をするんです、危ないでしょう!」
シャイニング・レディは憤怒の表情を浮かべて抗議した。
「い、今、危ないのはおまえだったぞぉ」
ジャスティーダも弱々しく抗議した。が、他の3人は聞いていなかった。
「ふん。もともとわらわに危ない真似をしたのはそなたらではないか。邪姫丸、次はそれじゃ!」
シャドーが傍らの洋服だんすに邪姫丸を向けた。邪姫丸はその他にサイドテーブルに椅子にドレッサー、スチールラックの板などの粗大ごみを次々と浮かび上がらた。さらには、テレビ、パソコン、昔ながらのメーターつきのアンプにスピーカー。
「げっ……電化製品が混ざってるじゃないか! リサイクル法に反しているぞ」
「わらわの関知するところではないわ! とにかくガツンガツンくらうのじゃ!」
シャドーが邪姫丸を振り下ろすと数々の粗大ごみが宙を舞った。
「うわ、ジャスティス・ブレイク!」
ジャスティーダは正拳で飛んできた電化製品を粉砕させる。破片は今度はシャイニング・レディの方にも跳ね飛んだ。
「何をするんです! 危険でしょうが!」
「おまえだって、さっき、瓶缶ばらまいたじゃないか!」
口論するシャイニング・レディとジャスティーダを前にシャドーは笑いが止まらない。
「ふふふ、よい気味じゃ。その姿が見たかったのじゃ! しかし、真の報復はこれからぞ!」
ふんぞり返ったシャドーが次に選んだのはゴミ清掃車だった。あろうことか、その巨体がゆらゆらと浮かび始めた。
「待て待て待て! それは洒落にならないって!」
さすがにジャスティーダはぎょっとした。
「わらわを侮辱した報いなり。これの下敷きになってしまうがよいわ! 邪姫丸、トルネードさせよ!」
「ぐるぐるします!」
清掃車は最初ゆっくりと回転し始め、だんだんと勢いをつけてドリルのように回転し始めた。
「冗談じゃない、あんな弾丸くらったら、ゴミまみれどころか、ゴミそのものになってしまう!」
「いい感じじゃぞ! しかしまだじゃ! もっともーっと高ーく上げよ!」
「ですが、姫様、とっても重たくて、つらいですみゃ」
「頑張るのじゃ、邪姫丸!」
「みゃー、頑張るです……みゃー!」
邪姫丸はうんうんと唸りながら車にパワーを注いだ。努力した甲斐あって、邪姫丸は車を10メートルほども持ち上げることに成功した。
「ようし、これでよかろう、『禁圧のサブジェクション』マキシマムじゃ!」
「みゃ……姫様、魔力切れですみゃ」
「な、なに?」
しかし、さすがに車が重たすぎたのである。シャドーの魔力の消費も半端なかった。残念なことに邪姫丸が受け取っていたシャドーの魔力が切れてしまい、車は落下した。