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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第4話
分別ふんべつなき分別ぶんべつ [#7]


「ぬはぁぁぁ!」
「きゃあああ!」
「むぉぉぉぉ……」
「みゃー……」
 さながら隕石の衝突のようだった。轟音と同時に4人の悲鳴と呻き声も響いた。地面に激突した運転席はアスファルトをえぐり、後部のコンテナが裂けて、ぎゅうぎゅうに詰まっていたゴミ袋を辺り一面にまき散らした。全員が溢れ出たゴミ袋に巻き込まれて倒れ込んだ。倒れていた戦闘員たちにいたっては、完全にゴミ袋の下敷きになっていた。
「うぅっ……ゴミまみれだ」
 ジャスティーダは起き上がろうとして、上にずっしりと乗っているゴミ袋に手をかけた。いくつかの袋は破損して中身が飛び出ている。そのゴミに見覚えがあった。弁当のパックやヨーグルトの入れ物、それに大量のティッシュ……。今朝、彼が捨てたゴミだった。よく見れば、まほたちが出した大きなゴミ袋も近くに転がっていた。破損した清掃車は既に日登美荘のゴミを回収してあったのである。そして、ジャスティーダの右手のすぐそばに転がっていたのは、綾乃が出した小さなゴミ袋。袋はスッパリと裂けて、中からピンクのティッシュが飛び出ている。今朝、ちらりと見えたものと同じ……はさまっている長い髪の毛も確かに綾乃のものに違いない。さらにキュッとしばられた小さなビニール袋が入っていた。何の気なしにジャスティーダはそれに手を伸ばす。ちょっとだけふっくらしていて柔らかい。なんのゴミだろう? そう思った瞬間だった。
「わあぁぁぁっ……!」
 シャイニング・レディがすっ飛んできてジャスティーダに肘鉄をくらわせると、その手からビニール袋をひったくった。ジャスティーダは再びゴミの中に埋もれてしまった。
「ううっ」
 シャイニング・レディは非常に慌てていた。小袋を握りしめる。
「ナ、ナニヲスル!」
 身体を起こしながらジャスティーダが文句を言うと、シャイニング・レディからはその5倍は強い口調の文句が返ってきた。
「こ、これは……女性の捨てたゴミではないですか!」
「よくわかるな」
「あ、当たり前でしょう!!」
「当たり前なのか?」
「だ、黙りなさい!」
 シャイニング・レディがジャスティーダの頭を何度も蹴る。パワーフィールドでブーストされたヒールのかかとは容赦なくジャスティーダの頭部にガンガン衝撃を与えた。
「いてっ、いて! な、なに、いきなり、むきになってるんだ!」
「女性の出したゴミをジロジロ見るなど、男性としてやってはならない事ではありませんか!」
「そんな事を言われてもだな、これは事故だぞ! だいたい、おまえ、街をゴミまみれにするのが任務なんだろ? だったらこんな事故が起きうるって事くらい想像できたはずだ」
「こ、これは想定外です!」
 シャイニング・レディが動揺している理由はよくわからなかったが、ジャスティーダはチャンス到来と感じた。
「そもそもゴミは実はこのようにプライベートの塊だ。ゴミを見ればその人がどのような生活をしているか一目瞭然。それがどれだけ恥ずかしい事か、同じ女性であればわかるだろう?」
「ううう」
 絶句するシャイニング・レディ。ジャスティーダはここぞとばかりに力説した。
「男性にしたところで同じだ。たまたまティッシュをいっぱい使った日があったからといって『おやおや』とか思われたらたまったものではないのだ」
「はぁ?」
 動揺しつつも訝しげな目を向けるシャイニング・レディに、ジャスティーダは論旨を間違えたかもしれないと思い軌道修正することにした。
「いや、いいんだ、それはいいんだ。とにかく、ゴミなどというものはさっさと片付ければ無用の誤解を生まずにすむと言いたいのだ。例えば、おまえが俺から奪い取ったそのゴミ。そう、そのゴミを出した女性は、顕著で清楚でつつましやかな女性でな」
「っ……な、なぜ知っているのです!」
「え? あー、いや、そんな気がしただけだ。ゴミを見たら想像できたという話だ」
「そ、そうですか。まあそんなところでしょうか……それでなんだというのです」
「きっと、その女性も思うだろう。私の出したゴミを見ないでほしい、とな」
 シャイニング・レディは口をへの字に曲げてもじもじしている。
「さあ、この忠告はおまえのためでもある。この先、おまえが出したゴミから、おまえの恥ずかしい個人情報がダダ漏れになる事だってありうるんだぞ」
「くぅぅぅ……!」
 シャイニング・レディは顔を真っ赤にして唇を噛んだ。やり場のない怒りと羞恥心がないまぜになっていた。
「次に会った時は覚悟する事です!」
 シャイニング・レディは、突然、叫ぶと走り去った。
「あっ、い、いきなり?」
 突飛さにきょとんとしてしまったジャスティーダだが、それは取り残された戦闘員たちも同じだった。
「イ!?」
 彼らもなんとかゴミ袋を押しのけて起き上がると、シャイニング・レディの後を追って身体をさすりながら去っていった。
「ぺっぺっ。なんということじゃ、人間界こちらに来て2回もゴミまみれになるとは……」
 クリーナーたちが去った後、シャドーと邪姫丸ものっそりと立ち上がる。
「かくなる上は一刻も早く湯浴みをして、きれいさっぱりエレガントを取り戻すのじゃ……無礼者よ、いずれたっぷりと礼をしてくれるが、それまで身体をきれいに洗って待っておれ!」
「邪姫丸もふらふらですみゃ。帰りましょう、姫様」
 シャドーはそそくさと立ち去った。その後ろ姿を見送りながら、ジャスティーダはつぶやいた。
せわしないが、己の敗北を悟って去るとは潔い奴らだ」
「つまり、結果オーライ、正義は勝つ! では俺も戻るとしよう。そうだ、まほちゃんたちの荷物を持って帰らないといけないのだ」
 ジャスティーダはマントを翻し、ダッシュでその場を去った。
「ああ! あいつら、ゴミ散らかしまくって逃げたぞー!!」
「うわー、どうすんだ、この車!」
「……結局、私は拉致されなくていいのだろうか?」



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