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ゲームライフ・ゲーム

亜麻矢幹のエンタメコンテンツ

人世一夜の日登美荘
第5話
Lead or Die [#5]


 その後は平穏な時間が続き、日之本は集中して働くことができた。いつまでもバタバタしっぱなしでは申し訳ないというものだ。続けてレジ打ちや本のシュリンクの仕方なども教えてもらった。そうこうしているうちに夕方になり、勤務終了時間を迎えた。
「おつかれさまー。明日もよろしくね」
「はい、お先に失礼します」
 正義の味方として走り回るのもよいが、労働でかく汗もよいものだ。軽い充実感を覚えながら事務所を出ると、店内でまだ立ち読みをしているまほの姿が目に入った。正確にはしゃがみ込んでいたので座り読みであったが。
「まほちゃん、まだいたの」
 呼びかけるとまほははっとして振り返った。
「むぉ、日之本殿……いや、すっかり、情報の虜となってしまった」
 まほが読んでいた本はページのほとんどが広告ともいえるウェディング情報誌だった。とても分厚く、確かに持ったまま読むのは難しいだろう。まほはそのドレス姿をじっくりと眺めていたのだった。
「日之本殿が着替えたということは、本日の勤労は終わりであるのだな。では一緒に帰ることにしようぞ。じゃが、しばし待たれよ、すぐにこの情報をインプットしてしまうからの。このドレス……なんとエレガントであろうか」
「ところで、しもべさんもまだいるのかな」
「うむ、きっとその辺にいると思われるぞ」
「だろうね……探してくる」
「すまぬの、戻るまでにはすませることとする」
 日之本はしもべを探すことにした。いくつかの通路を覗き見て、児童コーナーにいるしもべを見つけた。しもべも本に夢中で、しきりに感心してうなずいていた。日之本が呼びかけると、まほ同様、しもべはびくっとして振り向いた。
「仕事は終わりました。まほちゃんもそろそろ帰るそうですよ」
「ははあ……もうそのような時間でしたか。ついつい、夢中になっていました」
 しもべはじっくりと世界の猫カタログを見ていた。
「猫、かわいいですね」
「かわいいというより、見れば見る程奇妙な生き物だなと思います」
「ん?」
「人と共存する道を選んでも、忠誠を誓わず気ままに生きる……姿形は似ていてもずいぶんと違うものです。もっとも魔力のない世界で、人型に変身もできないなら仕方ないかもしれません」
「……とにかく帰りましょう」
 しもべはうなずくと本を元の場所に返して、ふたりはまほがいた所に戻った。しかし、既にまほはいなかった。どこに行ったのだろうかと思った矢先、何人かの客が小走りで目の前を通り過ぎ、店から出ていった。すべて男性だ。客たちは「失礼しました」と詫びたり、「俺の楽しみが」などと嘆いたり、一様に惑乱している様子だった。嫌な予感が日之本の脳裏をよぎると同時に、聞き覚えのある声が店内に響いた。
「何も変わっておらぬではないか! このように好き者の成長を促して、どうするつもりなのじゃー!」
「ですから、私が指示したものではありませんっ!」
 応対しているのは冨永で、さっそくヒートアップしかけている。
「えぇい、どうしても反省する意志なくば行動を伴う説得をするしかあるまい! ここにある本をすべて差し押さえる!」
「やめてください、やめてください!」
「むぉっ! 何をする、放せ、この無礼者がーっ!」
「えーい、お客と思っておとなしくしてれば……いい加減にしなさい! この小娘ー!」「本性を現しおったな! この魔性の女め!」
 とうとうふたりの戦いが始まった。冨永がまほにつかみかかり、まほが手当たり次第に近くにあった本を投げつける。
「まほ様に何をするのですかーっ!」
 すかさずしもべがふたりの間に割って入り、冨永と取っ組み合いになる。
「まほ様を放すですっ!」
「おお、しもべ、徹底的にやってしまうのじゃっ!」
「かしこまったのです! みゃー!」
「ええい、手を放しなさいっ!」
 しもべの手を払い、近くにあった本を手に取り応戦する。宙を飛び交う本。騒動を耳にして駆けつけた小柴は、その様子を目にすると手を震えさせて日之本に泣きついた。
「ひ、日之本くんっ……あれっ、なんとかできないかい!?」
 ああ、これも正義の味方の性であろうか。怯える小柴を救うべく、日之本は飛び交う本の中に飛び込んだ。
「待った、待ったーっ! ぶはっ!?」



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