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ゲームライフ・ゲーム

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人世一夜の日登美荘
第5話
Lead or Die [#6]


 日之本は立て続けに3発くらった。しもべの肘が腹に、冨永の裏拳があごに、そしてとどめに飛んできた本の角が額に。よろめいて後ろに倒れ込んだ衝撃で後ろの本棚を倒してしまい、どさどさと崩れ落ちる本に埋もれてしまった。そのおかげでまほたちは冷静になり、なんとか騒動を収拾する事ができたのだが、後始末が大変だった。
「すまぬことをいたしました」
「大丈夫であるか? まだ痛むかの」
「平気、平気……これしきの事」
 帰り道、まほは背伸びをして日之本の頭を撫でた。根は悪い子ではないのだ。
「何があったかよくわからないけど、あまり過剰反応しちゃダメだよ」
「しかしであるな、あそこにあった非エレガントな本の数々、そこにまた群がるうだつの上がらぬ男ども。ただただ不健全ではないか。日之本殿はそうは思わぬか?」
「つがうなら正々堂々とつがえばよいということですね」
「そ、そのとおりじゃとも」
 顔を赤らめるまほ。
「それにあのエッチな女、凶暴にもほどがある。いったい何を考えているのやら……」
「しもべとも互角の戦いとなりました。なかなかやる手合いです」
「どっちにしてもあれだと営業妨害になっちゃうから。とにかく俺のためだと思って、我慢してもらえるとうれしいんだけど」
「日之本殿が困ると?」今度はまほが唸った。「ならば仕方あるまい。道理が引っ込むというやつじゃが、日之本殿に迷惑をかけるわけにはゆかぬからな」
「確かにまほ様のおっしゃるとおり……仕方がありません」
 なんとか説得でき、日之本はほっと胸を撫で下ろした。日登美荘に辿り着き、3人は部屋の前で手を振り別れた。日之本が部屋に入るのを見届けた後、まほは腰に手を当ててつぶやいた。
「しかし、心配ではあるな。日之本殿が崇高な魂の持ち主であることはわかっておるが、あの環境はよろしくない。影響されてしまうということもありうる」
「さすが、お目が高い……では、どうにかしましょう」
「そうであるな。どうにかしてしまうこととしよう」
 力強く頷いて、ふたりも自らの部屋に戻った。

 * * *

 とにかく騒動の種がつきない。なんと慌ただしい一日だったろう。日之本がデイパックを下ろして中を開けた時、中から何かが落ちる。日之本は激しく動揺した。なんと……まほが非エレガントと言っていた本であった。どうしてこんなものが!? そんなものをデイパックに入れた覚えはないのだが、すぐに見当はついた。先ほどの喧騒で飛び交っていた本がまぎれてしまったのだろう。明日、返しておかねば。日之本は本を手に取った。
 『MOGITATE』。
 グラビアアイドルの写真集だ。表紙は真っ赤なリンゴを片手に持って微笑んでいるきれいな水着の女性。特筆すべきは水着の面積が割と小さめなことである。しかし、これがまほの言う非エレガントなものであるかどうかは不明だ。本は表紙だけで判断してはいけないものなのだ。大切なのは中身である。日之本はじっと表紙を見つめた。内容がエレガントである可能性は否定できない。そのときである。いつものごとくアイベリーの声が響いた。
「あっ、そうだー」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
 日之本は咄嗟に本の上に座り込んだ。心臓がばくばくと跳ねる。クールフォンから飛び出したアイベリーも驚いていた。
「わわっ、な、何っ!?」
「び、びっくりさせるなよっ!」
「アイもびっくりしたよっ! なんだってそんなにびっくりしちゃうわけっ!?」
「おまえが急に話しかけるからだっ!」
「アイが話しかけるだけでこんなにびっくりするの?」
「誰だって、突然話しかけられたらびっくりするの!」
「ふむ、過剰反応しているようにしか見えないのがポイント。つまり、何かやましい事を考えていたのではないかと」
「そんな事はありません」
 ごくりと唾を飲み込んだ後、日之本が冷静に応えると、アイベリーは真剣な顔で覗き込み、こっそりと聞いた。
「真っ最中だった?」
「違ーう! そんなことより、用件を言え!」
「なんか引っかかるけど、まあいいか。アイは充電をよろしくって言いたかったわけだけど」
「そんなことはわかっている。俺の日課だぞ」
「とかなんとか言って、アンタ、いつも忘れるんじゃんよ……あ」
 アイベリーは途中で目を丸くして言葉を切った。
「もしや、充電忘れるのって、わざと?」
「いやいやいや、決してそういうわけじゃない」
「そう?」
「うがった見方をするな、そんな底意地が悪い真似はしない」
「あー、それは信じてるよ。そういう意味じゃないんだ」
「そりゃどうも。だったらなんだ」
「ほら、アイが休止してる方が……ね、都合がいいってコトだったら……まあ、それはそう言ってくれればおとなしくしてるけど」
「どうしておまえはそーゆー発想しかしないんだ!」
「はいはい、おっやすみー」
 日之本はクールフォンにコードをつないで充電を始めた後、敷いていた本をそっと手に取り、心の中でつぶやく。この本はたまたまここにあるだけ。中身を想像する必要などない。ましてや確認する必要などあろうはずもない。明日、店にきちんと返す。日之本は本をデイパックにしまうと寝転がった。
 しかし、しばらく眠れなかった。



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